カウンセリングの中で起こる、一つの重要なターニング・ポイントとして、「見つけてもらう」という体験があります。
今まで親にも先生にも見つけてもらえなかった、クライエントさんの気持ちや意思、体験に、カウンセラーが気づくことができると、クライエントさんはハッとして、頷きながら、涙ぐまれることがあります。
例えば、クラスメイトからの嫌がらせに対して、気にしていないそぶりを見せていたけれど、本当は相手の卑劣さにひどく腹を立てていたこと、そして、誰もそれを止めてくれないことが悲しく、傷ついていたこと。
試験や就職の面接を、いつも難なくこなしているように見られるけれど、本当はその都度具合が悪くなるほど緊張して、張り詰めた気分で過ごし、最悪の事態を想定してはしんどくなって、試験や面接の後には疲れ果てて、何もしたくない気持ちになること。
こうした体験は、思いの外、他の人から見過ごされやすい部分です。
なぜなら、人は自分が不安になったり、嫌な気持ちになりたくないため、他者の不安や傷ついた気持ちまでも、ないものにしてしまうことがあるからのです。
「クラスメイトから嫌がらせを受けているようだけど、気にしている様子もないし、大丈夫だろう」
「緊張するっていつも言ってるけど、たいてい大丈夫じゃん」
と、表面に見せている様子以上のことには触れられないこともよくあります。
あるいは、「良かれと思って」あえて触れない場合もあるでしょう。
しかし、こういったことが続くと、私たちは、"大丈夫な自分"しか他者に見せられなくなっていきます。
"大丈夫ではない自分"を見せても、周りが反応してくれない(無視される)どころか、否定されることさえあるからです。
こうした体験に、目を留めてもらえるだけで、人はエネルギーを取り戻すことができます。
カウンセリングを受けた経験がない方も、本や映画の中の登場人物の気持ちや、ある曲の歌詞を聴いて、「まるで自分のことを歌ってくれているみたいだ」「これこそ自分が感じていた気持ちだ」と思い、涙がこみ上げてきたことはないでしょうか。
今まで、誰の目にも止まることなく、"ないもの"にされてきた気持ちに、パッと光が当たる。
最初は、喜びよりも驚きの方が大きくて、思わず尻込みしてしまったり、当てられた光が眩しすぎて顔をしかめてしまうように、必ずしも初めからいい体験には思えないかもしれません。
でも、なぜだか涙が出る。ほっとする。
本当の自分を見つけてもらったような気持ちになる。
自分の中で死にかけていた部分が、息を吹き返すような感覚。
「見つけてもらう」という体験には、身体の芯にポッと火が灯るようなあたたかいエネルギーが伴います。
カウンセリングの場は、それが起こる、数少ない場所なのだと思います。