知らず知らずのうちに、気持ちや感情について話すことをやめていた。
わかってほしかった気持ちが、かつては心の中にあったはずなのに、今では自分がどんな気持ちでいるのかすら、わからなくなっている。
ある感情に触れて、クライエントさんの目にじわりと涙が込み上げてくるとき、凍りついていた感情や体験、あるいは心そのものが解凍されていくようだと感じることがあります。
「そんなのよくあることだよ」
「もっと大変な人もいるんだから」
「それはあなたが悪かったんじゃないの?」
ある出来事について話したとき、その出来事を通して体験した感情をわかってもらうというのは、実際とても貴重なことなのだと思います。
上記のような言葉を発した人たちは、「よくあることだから悲しむな」「もっと大変な人もいるのだから、弱音を吐くな」とまで言っているわけではありませんが、感情を受け止めて欲しくて口を開いた人たちは、後半の言葉にされてはいないことも、メッセージとして受け取ってしまうものです。
「これくらいで悲しむのは、自分が弱いからだ」
「もっと大変な人もいるんだから、これくらいのことで参っていてはいけない」
他者からも受け止めてもらえず、自分自身の中でも否定され、どんどん感情や体験は心の外にも内にも居場所を失っていきます。
だからこそ、カウンセリングでは「感情の居場所をつくる・取り戻す」ことが必要なのだと思います。
「よくあることだとしても、私は悲しかった」
「他の人から見てどうだろうと、私にとっては打ちのめされるような体験だった」
「わたし」がそれをどう感じ、体験したのか。それこそが大事なのです。
カウンセリングの場で、その体験が、誰かの体験と天秤にかけられることはありません。
「私は悲しかった」
「私は腹が立った」
「私は悔しかった」
それがすべてであり、真実です。それでいいのです。
不思議なのは、こうした感情がしっかりと感じられる、つまり、心の中に居場所を得ることができると、あたかも「その人自身が戻ってきた」ように感じられたり、「その人自身の存在感に厚みが増す」ことです。
感情とともに切り離されていたエネルギーが、その人の身体に戻って来るからなのかもしれません。
これからも、お一人おひとりの心の中に、感情の居場所を作れるように、自分に足りないスキルや知識も身につけていきたいと思います。
2023年も大変お世話になりました。
2024年もどうぞよろしくお願いいたします。
この年末年始を、みなさまが安全に健やかに過ごされることを願っています。