Talk to Your Heart

〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

「カウンセラーは自分の考えを言うべきではない」という誤解

大学で教えていた頃、「カウンセラーが自分の考えを言うのは、押しつけになると思う」という言葉に、頭を抱えていたことを時々思い出します。

カウンセラーには、「個人としてではなく治療者として」、自分の考えを時にはっきりと伝える責任があると、私は思っています。

クライエントさんの心を円グラフに例えてみると、自分の部分が数%しかない人に出会うことがあります。その他の9割は、誰かのこと、誰かから言われたことが占めているような状態です。

この状態のままで、自分を認めたり、自分を大切にするのは難しいです。

まずは、心の円グラフの中で、クライエントさんの部分を広げていく必要があるのです。

そんなとき、私は、「ちょっとその人の存在が大きすぎるような気がするので、その人のことはちょっと脇に置いておいて、〇〇さんが感じている気持ちにスペースをあげてみませんか」と、クライエントさんに伝えたりします。

そうやって、私が自分の考えを伝えることで、行き詰まった状況を前に進めることができるからです。

カウンセラーの中には、実は人とかかわることが怖いと感じている人も少なくありません。

そういう人たちにとっては、「考えを言わない」「相手が気づくのを待つ」というのは、自分の中の恐怖心と向き合わなくてもいいので、ある意味で都合がいいのです。

「押しつけになる」という言葉によって、自分の恐怖心を正当化することができるからです。

 

でも、物事の学びは“守破離”というプロセスを辿ります。

「考えを言わない」「相手が気づくのを待つ」という教えを守っていても、そのうち、そのやり方を破り、離れるときがやって来ます。

人とかかわることが怖いという自分の中の気持ちと、向き合わなくてはいけない時が来るのです。

カウンセラーが、自分の中の人と関わる恐怖を乗り越えて、相手とつながろうとするとき、クライエントさんは驚くほどしっかりとそれを受け止めてくれます。

カウンセリングの授業の中で、こう言いましょうと習った言葉を、台本を読むように伝えるよりも、カウンセラーが自分の言葉で、時々つっかえながらも話をするとき、クライエントさんは、そこにカウンセラーのauthenticity(真実味、本当であること)を感じ取ってくれます。

誰にも言えなかった悩みをクライエントさんが話してくれて、それに対してカウンセラーが治療者として本当に感じたことを話すとき、初めて、カウンセリングを支える信頼関係が作られるのだと思います。