日本人にとって、謙遜は美徳だと考えられています。
「すごいね」「綺麗だね」「優しいね」
などと褒められても、
「いえいえ」「そんな」「大したことないです」
というのが、常識的な対応だと思われています。
でも、カウンセリングの場では、違うことをしたいと思います。
カウンセリングに来る人たちは、もちろん、悩みや生きづらさ、問題を抱えているわけですが、それがその人のすべてではありません。
カウンセラーの体調を気遣ってくれたり、子どもの成長に顔をほころばせたり、誰かのために涙を流す優しさや、喜び、思いやりを持った人たちでもあります。
そうした、クライエントさんたちの中の「よいもの」に出会ったとき、それに一緒に気づき、認めることもカウンセリングの場でできる大切なことだと思います。
なぜなら、「よいもの」は「当然のもの」「当たり前のもの」として日々軽んじられ、なかなかその価値を認めることがないからです。
コロナ禍で会えなくなった、年老いた両親のことをいつも気にかけていること。
うつ病で身体がしんどくても、家族の喜ぶ顔が見たくて、何とかご飯を作っていること。
喧嘩をするとパートナーにひどいことを言ってしまうけれど、カウンセリングを受けて早く優しくできるようになりたいと思っていること。
「そんなの当然じゃない」
と言われるようなことではありません。
こうした思いに気づいて、それに光を当て、
「あなたの中にある思いやりに触れて、私もとても感動しています」
とカウンセラーが伝えることや、
「思いやりがあると言われて、どんな感じがしますか?」
とクライエントさんの自己イメージに働きかけていくことで、「自分の中のよいもの」に気づき、それを育んでいくことができます。
これは一見回り道のように感じられたり、セッションの流れとは何の関係もないように思えるかもしれません。しかし、こうした「よいもの」や「善性」に光を当てていくと、問題そのものにアプローチするのとは違う形で、よりよい方向へと進む変化が起こることがあります。
「思っていたよりも、自分っていい人間なんだと思いました。そう言ってもらえて、恥ずかしいけど、うれしいです」
と、クライエントさんが涙ぐみながら笑ってくれたら、そのとき確かに変化が起こるのです。
自分の中のよいものに光を当てる。
よいものを持っていることが、決して当たり前ではないと気づく。
自分の中のよいものは、自分が努力して培ってきたものであると認める。
苦しみに寄り添うことだけがカウンセリングではありません。
こんなふうに、クライエントさんが自分の中で大切に育ててきた宝物を、見せてもらえることもあるのです。