歩き続けるよりも、立ち止まってみたほうが、今いる場所がよく見えるものです。
カウンセリングの時間は、長い人生の中での「立ち止まる時間」なのかもしれません。
立ち止まるというのは、勇気がいることです。
周りの人が足を止めずにどんどん進んで行く中で、自分だけ足を止めてしまうと、置いてきぼりを食うことになるかもしれないからです。
一人ぼっちになることも、遅れをとることも恥だと、私たちは感じやすいのです。
でも、カウンセリングという「立ち止まった時間」は決して空っぽではありません。
土の下に埋まった種子が、芽よりも先に根を生やすように、立ち止まった時間の中にはさまざまなものが息づいています。
人生が変わるような変化は起こらなくても、ある瞬間の眼差しに、ため息に、姿勢のシフトに、変化の兆しや気配が見てとれることがあります。
私が学びながら実践している心理療法の中に、こんな言葉があります。
「早く進むために、ペースを落とす」
私たちは、ペースを落とすことや立ち止まることがすっかり苦手になっているかもしれません。
ペースを落とすこと。
何もしないこと。
ゆっくり休むこと。
待つこと。
忙しくしていたり、余裕がなくなると、立ち止まっている間にしか起こらない、とても大事なことを見落としてしまいます。
立ち止まって、ひとつ深呼吸をし、次の一歩のためのエネルギーをチャージすること。
立ち止まって、これから進む先の方向をしっかりと見定めること。
立ち止まって、これからも背負って行くものと、置いて行くものを決めること。
カウンセリングをしている中で、私自身も、立ち止まることを前ほど恐れなくなったような気がします。
それはきっと、一緒に立ち止まった時間の中で、クライエントさんが希望や意志や、方向性を見出すところを目の当たりにしてきたからだと思います。
今では、立ち止まるという行為の中に、すでに次のアクションが内在しているようにすら思えるのです。