カウンセリングの中で、怒りが出てきたり、悲しみが出てきたりすることは、とても大切なことです。
でも、注意していただきたいのは、「感情は、ただ表せばよいというものではない」ということです。
私たちは感情を表していても、十分に感じていないことがあります。
例えば、クライエントさんが早口で、怒りをぶちまけるようにして話すとき、私はむしろ、その怒りの下に悲しみや孤独感といった、何か別の感じられるべき感情があり、それが十分に感じられていないせいで(あるいは別の感情に近づくことが怖くて)、怒りに拍車がかかっているのではと考えます。
感情には、感じても感じてもスッキリせず、出口が見つからない感情(二次感情)と、つらい感情であっても感じるとスッキリして、自分が次にどんな行動をとったらいいかという方向性を見せてくれる感情(一次感情)という2つのタイプがあります。
攻撃的で破壊的な怒りや、いつまでもズルズルと続く悲しみは、前者の例です。
この区別がついていないと、ただ感情を表すだけでは、変化を感じることができません。
もちろん、カウンセリングの最初に出てくるのは、二次感情であることがほとんどです。
なので、カウンセラーは、「この二次感情の下に、どんな感情が隠れているのかな。この二次感情は、他のどんなつらい感情をこの人に感じさせないために、表に出てきているのかな」ということを考えながら、クライエントさんの話を聴きます。
そして、二次感情の下にある一次感情が見えてきたときも、それをただ表すことを目指すのではありません。
二次感情の根っこにあった、別の感情をしっかりと感じること。
(あぁ、自分はずっと怒っていると思っていたけど、本当は悲しかったんだ)
それから、その感情を感じた体験がどんなものだったか振り返ること。
(一人で泣くなんて惨めでできなかった。でも、今ここで泣いてみて、つらいのはもちろんだけど、これが、自分の本当の気持ちだって感じる)
そして、その感情を感じた自分が今、どんな状態になっているかをゆっくり時間をとって感じること。
(涙が出る、泣けるって、こんなに楽になることだったんだ。泣いたら自分が壊れてしまう、何かが終わってしまうと思っていたけど、そんなことはなかった。何も終わらないし、自分は自分のまま。むしろ、前より少し強い自分がいるみたい)。
感情は、表したら終わりというものではありません。
これまで避けてきた感情に向き合って、その重みや痛みをしっかりと感じ、その感情が自分に伝えようとしていたことを聞き取り、その感情と一つになった自分が、どんな自分としてそこにいるのか。
表すだけで終わってしまってはもったいないほど、たくさんの宝物が、その先に待っているのです。