「自分を変える」「新しい自分になる」という言葉からは、ポジティブな印象を受けるものです。
しかし、人が変わるときには、深い悲しみ(グリーフ)があるということもまた事実だと、カウンセリングをしていて思います。
カウンセリングで人が変わるのは、心を覆っていたマントから手を離すときです。
あるいは、これまで自分の心を必死で守って来た部分に、「もういいんだよ」と伝えることでもあります。
それはただ、解放されて、楽になるというだけの体験ではありません。
逆に言えば、楽になるだけなら、変わることへの抵抗はずっと少なくてすみますし、変わることがいいことだと素直に感じられるでしょう。
でも、心を覆っていたマントを手放すとき、自分を必死で守って来た部分に「もういいんだよ」と声をかけるとき、人は何とも言えない、深い喪失感を味わいます。
この喪失感とは、例えば、「もっと早くにこれを手放すことができていたら、もっといろんなことができたかもしれないのに」という、そのマントにしがみつくことさえなければ、手に入っていたものに対して抱く気持ちであり、「今まで、自分は一体、何をして来たんだろう」という、これまでの時間を無駄にして来てしまったという感覚です。
変化した瞬間に、失ったものが見えるというのは、とてもつらいことです。
でも、同時にとても自然な心の動きでもあります。
クリアな目で、自分の心を見つめるようになったからこそ、見えるものでもあるのです。
「変わる」というのは、ただ単に清々しく、キラキラした体験ではありません。
失ったものを悼むための涙もたくさん流れます。
せっかく変われそうな感じがしているのに、変わるのが怖い。
そう感じているなら、それは心の中で、「深い悲しみが待っているぞ!」という警告音が鳴っているからなのかもしれません。
ここは、楽だという心地よい感覚と、悲しみというつらい感覚の両方がせめぎ合う、カウンセリングの中でも難しい段階です。
今まで心を守って来た歴史を思えば、ただ、楽だと感じるだけではないのは当然です。
怖さも、喪失感も、悲しみも出て来て当たり前なのです。
でも、その深い喪失感を感じ切った先には、今までの人生におけるどの時代の自分もまるっと大切に思え、堂々と「これが自分なんだ」と感じられる、あたたかく穏やかな状態が待っています。
そして、その難しい局面を乗り切るために、カウンセラーが一緒にいるのです。