Talk to Your Heart

〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

人が「変わる」ときに起こること

「自分を変える」「新しい自分になる」という言葉からは、ポジティブな印象を受けるものです。

しかし、人が変わるときには、深い悲しみ(グリーフ)があるということもまた事実だと、カウンセリングをしていて思います。

カウンセリングで人が変わるのは、心を覆っていたマントから手を離すときです。

あるいは、これまで自分の心を必死で守って来た部分に、「もういいんだよ」と伝えることでもあります。

それはただ、解放されて、楽になるというだけの体験ではありません。

逆に言えば、楽になるだけなら、変わることへの抵抗はずっと少なくてすみますし、変わることがいいことだと素直に感じられるでしょう。

でも、心を覆っていたマントを手放すとき、自分を必死で守って来た部分に「もういいんだよ」と声をかけるとき、人は何とも言えない、深い喪失感を味わいます。

この喪失感とは、例えば、「もっと早くにこれを手放すことができていたら、もっといろんなことができたかもしれないのに」という、そのマントにしがみつくことさえなければ、手に入っていたものに対して抱く気持ちであり、「今まで、自分は一体、何をして来たんだろう」という、これまでの時間を無駄にして来てしまったという感覚です。

変化した瞬間に、失ったものが見えるというのは、とてもつらいことです。

でも、同時にとても自然な心の動きでもあります。

クリアな目で、自分の心を見つめるようになったからこそ、見えるものでもあるのです。

「変わる」というのは、ただ単に清々しく、キラキラした体験ではありません。

失ったものを悼むための涙もたくさん流れます。

せっかく変われそうな感じがしているのに、変わるのが怖い。

そう感じているなら、それは心の中で、「深い悲しみが待っているぞ!」という警告音が鳴っているからなのかもしれません。

 

ここは、楽だという心地よい感覚と、悲しみというつらい感覚の両方がせめぎ合う、カウンセリングの中でも難しい段階です。

今まで心を守って来た歴史を思えば、ただ、楽だと感じるだけではないのは当然です。

怖さも、喪失感も、悲しみも出て来て当たり前なのです。

でも、その深い喪失感を感じ切った先には、今までの人生におけるどの時代の自分もまるっと大切に思え、堂々と「これが自分なんだ」と感じられる、あたたかく穏やかな状態が待っています。

 

そして、その難しい局面を乗り切るために、カウンセラーが一緒にいるのです。