黙っていても満ち足りた時間。
言葉があふれていてもからっぽな時間。
カウンセリングの場面には、そんな時間が流れています。
何が「満ち足りて」いて、何が「からっぽ」なのかというと、それはクライエントさんの中に起こる「体験」です。
感情体験や、感情を身体で感じる体験と言ってもいいかもしれません。
ポジティブな感情を体験しているとき、人は笑顔になり、目がキラキラして、姿勢がまっすぐになり、丸まっていた肩が開くので、身体がちょっと大きくなったように見えます。自然と胸を張る姿勢にもなって、呼吸がしっかりと入っていきます。
今まで感じられなかった悲しみを体験しているとき、眉が引き寄せられ、左右の口角が下に引き下げられます。顔が紅潮して、目から涙が溢れます。背中は丸まり、カウンセラーのほうにはその背中をさすってあげたいようないたわりの気持ちが湧いてきます。
でもその感情をしっかりと感じ切ると、クライエントさんはたいていふーっと大きな息を吐き、カウンセラーのほうを見てくれます。身体からは余計な力が抜けて、楽になっています。まなざしもは穏やかになり、「落ち着きました」「楽になりました」と報告してくれます。
ここまで来れると、感じていた悲しみの理由や意味、存在意義が自然と、クライエントさんの中で「腑に落ちて」行きます。そして、その悲しみをこれまで感じないようにしてきた(させられてきた)自分へのいたわりの気持ちが湧いてくることもあります。
悲しみや怒りといった一見ネガティブな感情も感じ切る意味があるのは、このためです。
こんなふうにゆっくりゆっくり、一つの感情を感じる機会は、普段の生活ではなかなかないものです。
「感情を感じるのがどういうことなのかわからない」とおっしゃる人は、少なくありません。
そのせいか、カウンセリングで過ごす時間を「とても贅沢な時間」と言ってくださる方もいます。
私も、クライエントさんの心の深いところに流れる「特別な時間」を一緒に過ごさせていただいているのを日々実感しています。