人間は眠っている間に、記憶を整理し、定着させています。
不思議なことに、ショックな出来事の夢は、その直後に見るのではなく、しばらく時間が経ってから見ることが多いのです。
そのため、ひどいパワハラなどで休職した人が、精神科や心療内科に通い始めてしばらく経ってから、上司から叱責される場面を夢で見るようになり、
「せっかく良くなったと思っていたのに」
と落ち込むことがあります。
しかし、これは、脳(身体)がやっとそのショックな出来事の記憶を整理する準備が整ったという、悪化ではなく、むしろ回復のサインなのです。
カウンセリングをしていても、同じようなことが起こります。
今まで見ることのなかった、つらい体験をした場面を見るようになったという報告だけでなく、その夢の中でのクライエントさんの振る舞いや、夢の展開が変わっていくという変化も起こります。
「今までと同じように、上司に怒られる場面を夢に見たけど、そこで言い返すことができたんです。今までなかったことでした」
「今までは、一人ぼっちでその上司に怒鳴られていたのですが、この前見た夢には味方がいたんです。目が覚めても、今までみたいな嫌な気持ちがしませんでした。脳が記憶を整理しているんだなって、冷静に思えている自分がいました」
これは、クライエントさんの心の傷が癒されていっているサインです。
理不尽なハラスメントの前で、自分は決して一人ぼっちでも、無力でもなかった。
そんなストーリーが、記憶として脳に定着していっているのです。
当オフィスでは夢分析は行っていませんが、時折こうした夢の変化の報告を聞けることがあります。カウンセラーもクライエントさんと一緒に、うれしい気持ちになれる瞬間です。