カウンセリングは、「出来事」について語る場ではなく、「自分の体験」について語っていただく場です。
クライエントさんが「自分の体験」をお話ししてくださるのを聴くとき、私はいつまででも聴いていられるなと思います。
車窓からの景色を、飽きずに見ていられるのと同じように、クライエントさんの体験はさまざまに変化していきます。
不安から始まった話が、安心感に行き着いたり。
怒りから始まった話が、悲しみに行き着いたり。
悲しみから始まった話が、自信に行き着いたり。
自分が日々体験していることをしっかりと味わっていくことは、畑の土を耕すように、自分の人生という土壌を豊かなものにしてくれるという感じがします。
しかし、普段の生活ではどうでしょうか。
意識はただ、出来事から出来事へと移り変わり、自分の体験なんてどこかにいってしまっている。
そんなふうに思う方も、少なくないかもしれません。
出来事から出来事へ、役割から役割へと、ただ日々をこなすだけのような生活をしていると、自分の感情や気持ち、身体の感覚といった体験に触れる機会が減っていき、次第に、自分自身とのつながりが希薄になっていきます。
「自分は何がしたかったんだっけ」
「自分の好きなことって何だったっけ」
「自分は何のために、この会社に入ろうと思ったんだっけ」
「自分は目の前にいる夫のどこを好きになったんだっけ」
考えることにも疲れてしまいそうで、いざ、こんな疑問が湧いて来ても、目をそらしてしまうものです。
マインドフルネスが流行っているのは、この希薄になりがちな「自分とのつながり」を取り戻すことができるからだと思います。
マインドフルネスの目的は、自分の体験に注意を向けることです。
自分の体験に注意を向けることで、私たちは自分自身とのつながりを保ちながら生きていくことができます。
カウンセリングでも、こうした「自分とのつながり」を取り戻すことができます。
カウンセラーは話を聴くだけではなく、自分からは意識しづらい表情や身体の動きをキャッチしてくれて、自分の体験に近づきやすくしてくれるからです。
カウンセリングは、人生における鏡のようなものです。
たまにふと立ち止まって、鏡で自分の身なりを確認するように、自分自身とのつながりを確認する場所なのです。
私は、クライエントさんの体験を聴くことも好きですが、自分の体験とつながったときに見せるクライエントさんのさまざまな表情を見るのも、とても好きです。
じんわりとあたたかい涙を流される方。
深い息をついて、何度か頷いた後に、しっかりと私を見てくださる方。
驚いたり、戸惑ったりしながらも、しっかりとその意味を理解しようとされる方。
微笑みながら、目に涙を浮かべる方。
幸せの瞬間の中に一緒にいられているようで、私も元気をもらっているのかもしれません。