カウンセラーを目指す学生たちと一緒に勉強会をしたり、自分のカウンセリングのデモンストレーションを見せたりすると、
「先生みたいに語彙力がない」
と言われることがあります。
私の語彙のルーツって何だったろうと考えると、確かに(日本の)カウンセリングのテキストはあまり浮かんでこないんですね。
・カウンセリングの逐語が掲載された海外のテキスト
・スーパーヴァイザーの言葉
・研修会でデモンストレーションを見せてくださった講師の言葉
・小説や映画、ドラマ、ドキュメンタリーの中の言葉
・クライエントさんの体験から生まれた言葉
そうしたものが、私の中で改めて醸造されて、自分の言葉になっていると思います。
その言葉を聴いたときの私自身の体験(感動、気づき、ハッとさせられる感じ etc)が乗り、旨みや味わい、オリジナリティーとなっている感じでしょうか。
中でも、最近はNetflixの作品から学ぶことが多いです。
・クライエントさんを肯定したり、エンパワメントしたくても、いい言葉が見つからない。
そんな方にオススメの番組は、『クィア・アイ』です。特に 日本でロケが行われたものを見るのもいいですね。
誰かのために自分を犠牲にするのではなく、誰かを大切にするために自分を大切にすること。
思いを伝えるのは怖いことだけど、思い切って伝えることですれ違っていた心がもう一度結びつく。
そんなメッセージが込められています。
・尊厳を傷つけられたクライエントさんの心を守るための言葉が出てこない。
そんな方には、『LAW & ORDER:性犯罪特別捜査班』をオススメします。性被害に遭われた当事者の方にはフラッシュバックを起こす恐れがあるので、オススメできないのが残念なのですが、支援者の方が見ると勉強になる場面がたくさんあります。
特に、ベンソン警部補とバーバ検事補のセリフは見事です。
このドラマを見ていると、言葉をかけるタイミングというものもすごく大切なのだなぁとわかります。被害者を守るとき、彼らには逡巡というものがありません。
家族が被害に遭い、「私が叫べばよかった」と自分を責める妻に対し、
「あなたが叫ばなかったから、ご家族の命が助かったのよ。抵抗したら殺されていたかもしれない」
と、ベンソン警部補はすぐに、はっきりと伝えます。
被害者の「自分が悪かったのでは」を、スペシャリストとして即座に・明確に否定するのです。
言葉の内容だけでなく、それをどんなタイミングでどんなふうに伝えると、傷ついた人の言葉が守られるのか、映像で見て学べるのはすごくいいなと思っています。
・人と心の関係について、わかりやすく説明したい。
そんな人には、『鬼滅の刃』もオススメです。主人公の炭治郎のセリフに次のようなものがあります。
「自分がどうしたらわからないのは、心の声が小さいから」
心に注意を向けることの説明は、理論よりも、クライエントさんの困りごとと結びつくものが良かったりします。アニメ自体がクライエントさんと共有できるコンテンツでもありますね。
心理職は、まずは「自分を見つめること」を指導されますが、自分の体験に頼りすぎた言葉は、少し独りよがりかもしれません。
それに、外側の言葉は、自分の中にある気持ちに輪郭を与えてくれます。自分で言葉にすることができなくても、外側の言葉に出会って初めて、
「自分が言いたいことはこれだ」
とわかることもあるのです。
小説やドラマといった文化を含む“他者”に出会っていくプロセスで、「相手に届く自分の言葉」が紡ぎ出されていくのだと思います。