Talk to Your Heart

〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

自己肯定感の天敵:有害な恥(toxic shame)

・いつも自分がすることに自信が持てない。

・できていることがあっても、いつもできないことのほうにばかり気を取られてしまう。

・仕事で優秀な結果を残しても「こんなの大したことない」「ほかの人はもっとうまくできる」と思って、自分を褒めてあげられない。

そんなふうに感じる人は、少なくないと思います。

感情のレンズで心の動きを見てみると、自信や自己肯定感の天敵となる感情として、有害な恥(toxic shame)が挙げられます。

この感情の扱いは非常に厄介で、カウンセリングの中でも、この感情だけは他の感情とは異なる扱い方をします。

例えば、マインドフルネスを学ぶと、「どんな感情も否定せずに、そこにあるんだねと認めたり、しっかりと体で感じることが大切」と言われることがあるかもしれません。

しかし、有害な恥だけは例外です。

有害な恥とは、「自分は無能だ」「自分には価値がない」「自分は誰からも愛されない」「自分は他のどんな存在にも影響を与えることができない」「自分は無力だ」などという感覚の根っこにある感情で、自分の存在意義を根底から大きく揺るがし、そこからくる劣等意識によって、他者や外の世界とのつながりを絶たせてしまうような感情です。

有害な恥の厄介なところは、一旦この感情が、ある人の中に植え付けられてしまうと、その人は、他の誰からも馬鹿にされたり、罵られたり、批判されることのない環境にいても、有害な恥を生み出すような声を、自分の内側から自動的に作り出すようになってしまうことです。

例えば、笑顔で接してくれる人がいても、

「この笑顔の裏では自分を馬鹿にしているに違いない」

などと感じるようになってしまうのです。

そして、他者や外の世界とつながることが怖くなり、心理的にも物理的にも孤独になっていきます。

また、有害な恥の影響に苦しむ人の中には、表面上はうまく他者との関係を取り繕っていても、本当の自分を誰にも見せられないと感じている人もいます。

「本当の自分を見せたら、きっとみんな自分から離れて行ってしまう」

そんな気持ちがいつもあるため、他者との心のつながりは表面的で希薄なものになります。

有害な恥の影響はパワフルで、健康な心だけではなく、健全な関係の持ち方まで脅かしてくるのです。

この有害な恥が自分の心の中にあると気づいたときに、一番最初に試してみたいのは、「この恥の感情を自分の外に出してしまうこと」です。

カウンセリングの中では、「私がそれを預かっておきますから」とカウンセラーから提案し、カウンセラーの手の中で預かったり、カウンセリングルームのどこかにしまっておくイメージをすることもあります。

みなさんが、小さなぬいぐるみなどをお持ちなら、一定の時間、自分を苦しめる有害な恥を、そのぬいぐるみに引き受けてもらうというイメージをするのもいいでしょう。

こうして、まずは短い時間でもいいので、「有害な恥の影響を感じない自分になってみる」のです。

一人ではなかなか難しいことかもしれませんが、カウンセラーと一緒にやってみると、

「なんだか少しほっとしている」

「心の中に余裕が生まれた気がする」

「肩が軽くなって、楽な感じ」

などと、有害な恥を抱えていたときとは違う感覚が、自分の中に芽生えるのを感じることができます。

それが、「本来のあなた」なのです。

有害な恥は、寝技に長けた格闘家のように、正面から正攻法で戦おうとすると、私たちをいとも簡単にねじ伏せて、さらなる無力感を与えてきます。

有害な恥からは、一旦距離を取ることが大切。逃げるが勝ち、です。

もっとも、逃げることすら、簡単ではない場合もあります。

有害な恥が心の中で、「逃げるなんて卑怯だ、弱虫だ」などと罵ってくることもあるからです。

心理学者のブレネー・ブラウンは、著書の中で、この有害な恥を「グレムリン」と呼んで意識化していましたが、有害な恥を象徴する性格の悪そうなキャラクターのイメージを自分で作ることで、距離を取りやすくなることもあります。

有害な恥は、体に良くない習慣とも似ているかもしれません。

「有害な恥に気づき、意識化し、距離を取る」という新しい習慣を身につけていくことが大切です。

カウンセリングの中では、この有害な恥から距離を取る練習を、一緒にやっていきます。

そして同時に、「本来のあなた」に戻るのがどんな感じかをじっくり味わいながら、その自分でいられる時間を長くしていくのです。