近年カウンセリングの世界では、トラウマや精神疾患の元になる感情として、恥に注目する動きがみられます。
この中で興味深いのは、重要な他者との間の感情調整がうまくいかなくなるとき(自分の感情に適切な応答をしてもらえず、無視される、過小評価される、否定される、批判される など)に、人は恥を感じ、孤独になるという理論です。
この孤独な状態が、いわばシャーレとなって、トラウマや精神疾患が培養されるのです。
感情に適切に応答してもらっていると感じるとき、人は恥とは無縁の状態です。
しかし、自分の感情を無視されたり、否定されたりすると、人は相手とのつながりを回復させようとして、「こんな感情を抱く自分がおかしいんだ」「こんな感情を持っている自分がダメなんだ」という恥を感じ、応答してもらえなかった感情を、「大切な人との関係を壊すよくないもの、悪いもの」として自分の心の中からも排除してしまいます。
つまり、恥をトラウマや精神疾患に関わる重要な感情として捉えている人たちは、恥を関係性(つながり)にまつわる感情とみなしているのです。
これは誰に教わるものでも、強要されるものでもなく、生理的早産という状態で生まれ、生きて行くために他者とのつながりを必要する人間が、本能的に備えたシステムです。
恥はとてもつらい感覚を伴う感情です。
身体を小さくして隠れたくなりますし、「消えてしまいたい」とか「この世からいなくなりたい」という気持ちすら引き起こします。
また、この恥を生み出すシステムの健気で痛々しいところは、例え、感情調整のうまくいかなさが、環境側に起因することであっても(例:産後母親が抑うつ的で十分な周囲のサポートがなかった、きょうだいが多かった、すぐ下に生まれたきょうだいが病気がちだったなどの理由で、子どもを育てる環境の側に、子どもの感情を気にかけるゆとりや余裕がなかった)、「こういう感情を持っている自分が悪いのだ」と、つらい気持ちをぐっと飲み込み、自分で引き受けようとするところです。
カウンセリングは、ここで絡まってしまった感情と関係の糸を解きほぐす作業です。
あなたが悪いわけではない。
悲しく思うのも、腹が立つのも自然なこと。
そのときにぐっと押さえ込んでしまった気持ちを、ここでゆっくりと体験してみよう。
そうすることで、親に対して、自分の過去に対して、今までとは違う気持ちを持てるようになる。
許すことや忘れることだけがゴールじゃない。
許さない、忘れないと決めることもまた、ゴールになる。
どちらにしても、過去の関係や過去の傷つきによって、今の人生を脅かされなくなる。
そんなゴールに向かって、ただ絡まった糸をほぐしていくだけです。
あなたがある感情を抱くことに恥を感じるなら、それは、かつて心の奥底に閉じ込めた大切な感情かもしれません。
恥は、それを教えてくれる大切な「痛みのコンパス」でもあるのです。