犯した罪を通して自分と向き合う
映画『プリズン・サークル』を観た。
書きたいことがたくさんあるので、数回にわたって書くかもしれない。
それほど、心揺さぶられる映画だった。
鑑賞直後、私はこんなツイートをした。
すごい映画だった。
— shiho📜こころが元気になる場所 (@emotion_lab) 2020年1月30日
グレイテスト・ショーマンは恥から自由になり、『THIS IS ME』と言い切る作品だったけど、これは『Who am I 』と問うことから、恥に向き合う作品だ。
痛みや弱さは誰にもある。そこに向き合う勇気をくれる。
映画『プリズン・サークル』公式ホームページ https://t.co/x9mfvTuHDj
このTC(回復共同体:Therapeutic Community)のプログラムで、参加者たちは自分の生い立ちや犯した罪といった自らの恥と向き合う。
親から暴力を振るわれていたこと、親に関心を向けてもらえなかったこと、ひどいいじめにあったこと、社会の中で自分の居場所がないと感じていたこと。そして、犯罪者となり刑務所にいること。
外の世界では、誰とも共有し得なかった体験を、初めて口に出して語るのだ。
トラウマになるほどのつらい体験は、もちろんないに越したことはない。
しかし、そうした体験が人生のほとんどであった場合、それを語り得ない人生は、その人の人生ではない。
それを語る場を得た参加者たちは、TCの中でようやく、“人間”になっていくようだった。
「ドキュメンタリーは退屈」とか、「刑務所の中の話なんて自分には関係ない」と思わずに、ぜひ会場に足を運んでほしい。
一言では語り尽くせないほど、大切なメッセージが詰まった作品だ。
感情とともに生きることが、自分自身を生きるということ
上映後に、坂上香監督とルポライターの杉山春さんのトークイベントがあった。
この内容にも、個人的には勇気と課題をいただいた。
虐待死事件を数多く追っていらっしゃる杉山さんから「感情を抑圧する社会」に対する問題提起がなされた。坂上監督もそれに答えて、
「多くの方が、(TCのプログラムを見て)私もここに行きたいと仰る」
そして、杉山さんが、
「そういう場が(刑務所の)外にない」
と仰った。
ここに、臨床心理士・公認心理師が社会に対して果たせていない役割がある。
公認心理師という国家資格ができたにも関わらず、カウンセリングは「抑圧した感情を語る場」として、まだまだ認知されていないのだと痛感した。
心理職の役割の一つは、人が感情とともに生きられるようにサポートすることだ。
長く個人カウンセリングを行ってきて、私自身も感じるのは、日本社会自体が非常に感情リテラシーが低い社会だということだ。
感情に対する人々の理解は非常に大雑把で、緻密さがない。
「負の感情は悪いもの」
「感情を表現するのは良くないこと」
「怒りを感じるのは悪いこと」
感情が持つ意味や機能についてはまったく知られず、ただ「良いか悪いか」で判断されることがとても多い。そのため、自分の感情にも他者の感情にも、寛容になれない。
心理職でさえ、感情に触れるようなカウンセリングを危険視する人がいることも事実だ。
しかし、自分の感情に気づき、感情を良い悪いで決めつけるのではなく、「どうしてそう感じているのかな」「あなたは何をしようとしているの」と優しく訊いてあげれば、感情は決して私たちを困らせるようなことはしない。
カウンセリングを始める前、クライエントさんたちも感情についてこんなふうに思っている。
「感情なんてなくなればいい」
「怒りなんて感じたくない」
「いろんな感情を感じるから、人生がつらくなる」
「感情がすべての苦しみの根源だ」
感情を敵視したり、感情の扱い方がわからなくて蓋をしていたり、感情は厄介で面倒しか引き起こさないと思っている。
苦しみを生んでいるのは、感情そのものではない。
厄介で面倒な感情を一緒に抱えて、その感じ方を教えてくれる“他者の不在”が、苦しみの根源なのだ。
カウンセリングを進め、感情を感じることが怖いことでも悪いことでもなく、むしろそこにこそ、自分自身があり、自分が生きているという実感があるのだと気づくと、クライエントさんたちの言葉は、こんなふうに変わっていく。
「感情があるから、世界が色であふれる」
「いろんな感情でできている、これが自分なんだ」
感情を排除してきたことこそが、生きづらさを生んでいたとわかるのだ。
TCに行かなくても、カウンセリングで、自分の感情に出会うことは必ずできる。
カウンセリングの認知度を高めること、そして、今後もっと多くの臨床心理士や公認心理師が、感情を適切に扱うカウンセリングができるようになることが必要だと感じた。
ただ、トークイベントで感情の重要性に触れていただけたのが、本当にうれしく、感情と体験に人が変わる鍵があると信じて、カウンセリングを生業としてきた私にとっては、とても励みになる時間となった。
映画『プリズン・サークル』ぜひ、ご覧いただきたい。