Talk to Your Heart

〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

顔は感情の舞台:その美しさと儚さと力強さ。

心理学者のP. Ekmanは、「顔は感情の舞台である」と言った。

カウンセリングでも、感情と切り離された言葉の代わりに、真の感情を伝えてくれるのは、顔である。

眼差し。噛み締められる顎。引き結ばれる唇。寄せられる眉根。こぼれ落ちる涙。ため息。

クライエントの心模様が、カウンセラーには見える。

 

一生懸命に、悲しみを覆い隠そうとする笑顔はとても美しい。

顰められた眉に見える困惑や心細さに震える瞳は、支援者側を奮い立たせる。

「この人のためにできることは何か」を真剣に心に問かけさせる。

だから、どうぞ、せめてカウンセリングの場では、顔に語らせることを許してあげてください。

感情と必死に戦っている人の表情は、決して滑稽なものではない。

感情のせめぎ合いを正直に映し出す人の表情は、人の胸を打つものです。


難破船 中森明菜

冒頭、彼女の瞳によぎる動揺と困惑、心細さ。

歌い出す前、目を閉じた彼女の心にあったであろう覚悟。

浮かんでは消える痛みと悲しみ。

それを覆い隠す厳しいまなざし、閉じられる瞳。

堪えきれずに溢れる涙。

時折、湛えられる笑顔。

 

一人の女性としての明菜さんと、表現者としての明菜さんの存在そのものがせめぎ合うようで、見ていると胸が張り裂けそうになるのに、決して目をそらすことができない。

彼女がとても美しいから。

そして、彼女を傷つきのなかに、一人にしておくことができないと思うから。

 

ただ美しいだけの映像でもないのも事実です。

二番に入る直前の瞳によぎる移ろいは、意識が飛びそうなんじゃないかと気が気でなくなる。

彼女の心の中に吹き荒れる暴風が、一瞬垣間見えるような気がする。

最後に、自分の頭を小突きながら見せる笑顔はあまりにも健気で、見ている方が涙してしまいます。

この明菜さんを美しく愛おしいと思った人は、きっと多いことでしょう。

でもこの美しさは、せめぎ合う感情と戦うどの人の顔にも見られるもので、その愛おしさも、見つめる側にきっと、こみ上げるに違いない気持ちなのです。