人が変わるために必要なのは、安心感です。
でも、人が変わろうとしない理由もまた、安心感なのです。
こう書くと、「?」と思われる方もおられるかもしれません。
カウンセリングを始めると、自分が抱えてきた傷つきや、ケアされるべき痛みが、思っていた以上にたくさんあることに気づきます。
「よく生き延びてきたなぁ」と、かつての自分をいたわりたくなると同時に、「これだけの痛みを今まで(自分自身を含めた)誰からもみてもらってこなかったんだな」と、悲しくなることもあります。
こうした悲しみを感じられるのも、安心感があるためですが、こうした悲しみから逃げ出したくなるのも、安心感を求めるからなのです。
前者の安心感は、つながりの中で生まれます。
心は、誰かの支えを受け入れるために開かれていて(全開でなくてもいいです)、優しさやいたわりを受け取る柔らかさを備えています。
対照的に、後者の安心感は、閉じた世界の中にあります。
安心ではありますが、心の中は冷たく、暗い感じがするかもしれません。
自分を傷つけるような声も聞こえてこない代わりに、頼りになりそうな声も聞こえてきません。
恐ろしい悲しみに脅かされることもないですが、「大丈夫よ」と支えてくれる誰かの存在はそこにはない。そんな世界です。
前者を本物の安心感、後者を偽物の安心感と呼ぶのは、単純すぎるかもしれませんが、カウンセリングで起こるのは、この偽物の安心感から、本物の安心感へ移行していくプロセスです。
「カウンセリングを受けて、人はスーパーマンになるわけじゃない。今までより、傷つきやすい人間になっていくんだ」
これは、ある人が私に教えてくれた言葉です。
大好きな言葉なので、時折こうして引用しています。
本物の安心感の中では、私たちは少しだけ無防備になります。
その分、他の人からの影響を受けることもありますし、自分の内側にあるネガティブな感情にも気づきやすくなるでしょう。
でも、そうなっても大丈夫と思える。
そうなるのは、自分だけじゃないんだと思える。
本物の安心感の中にいると、自分だけではなく、世界もそう完璧なものではないと感じるかもしれません。
より自然な方向へ、より力の抜ける方向へ。
そんな流れがカウンセリングの中で起こってくるとき、日の光に向かって芽を出していく植物と同じような力が、クライエントさんの内側にあるのを感じるのです。