感情を感じるというのは、言葉で言うほど、簡単なことでも、当たり前のことでもないのだなと、この仕事をしていると日々痛感します。
今ここでの感情や体験に気づいていくプロセスは、ただ話を聴いていると、自然な流れとして起こってくることもあるのですが、多くの場合は、意識して練習しながら、獲得していくものだという印象があります。
いわば、心のパーソナル・トレーニングのようなものです。
感情について教わることは、大学などで専門的な勉強をしない限り、人生の中でほとんどありません。
感情を感じていることが、カウンセラーからは仕草や表情から感じられても、話している当の本人のクライエントさんは、その感情が出てきていることに気づいていないということも、決して珍しいことではありません。
また、感情が出てきそうになると、言葉数を増やしたり、話題を変えたり、笑顔を見せたりして、その感情による自他への影響を抑えようとする方もいます。
これらは意識の外で起こることなので、クライエントさんにはコントロールできなくて当たり前です。
大切なのは、感情を感じる前に、感情を避けたり抑えたりする段階があると知ってもらうことです。
そして、「感情を感じようとすると、自分の中でどんなことが起こるのか」「自分がどうやって感情を止めようとしているのか」に、まず気づいてもらうことが、感情を感じる前の大切なステップとなります。
感情を避けたり、感じている状態というのは、パンドラの箱を抱えているようなものかもしれません。
フタを開けると、最後には、自分にとって大切な気持ちにたどり着けるのですが、その過程で嫌な気持ち、不快な感覚、不慣れでコントロールできない怖さにも出くわします。
それに耐えきれなくて、フタをしてしまうことを繰り返しているのが日常です。
でも、そのためにカウンセリングがあります。
一人ではできないことを、一緒にやって行くのです。
ただ、自転車に乗り練習をするときに、親がいくら自転車に乗って見せたところで、子供が自転車に乗れるようにはならないのと同じで、感情にアクセスし、触れていくときの主体はクライエントさん自身です。
身体の内側にしっかりと集中し、どんな感覚が起こっているかを感じてみる。
それが、ただただ怖くてつらいことなのではなく、おっかないけど好奇心をそそること・やってみたらちょっと楽になることとして捉えてもらえるような時間にしたいと思っています。