あまりにも基本的だけれど、この基本がずれてしまっていると、カウンセリングの中でのやり取りや目指す方向性がずっとズレていく。
言葉にならないし、個人差もある。だけど普遍的なもの。
それが「感情を感じる」ことを一緒にやっていくときの難しさです。
「今、どんな感じがしていますか?」
そう尋ねるだけで、胸を開き、深呼吸し、静かに目を閉じて、自分の内側で起こる感情や感覚にすっと意識を向ける方もおられます。
そういう方はきっと、「感情を感じる」という言葉がピンとくる方です。
一方で、
「今、どんな気持ちですか?」
「今、どんな身体の感覚が起きていますか?」
と尋ねても、自分がハマりがちな対人関係のパターンを説明し続ける方もおられます。
感情を理解していることと、感情を感じられることは同じではありません。
感情を感じるというのは、自分の身体の感覚に注意を向け、まずどんな感じが起こっているか観察するところから始まります。
感情は、喉元、肩や胸、お腹といった身体の中心部で感じられることが多いですが、手足の動き、表情にも表れます。
「肩に力が入っています」
「胸のあたりがキュッと締め付けられるようです」
こうした表現は、クライエントさんが感情を感じる世界の入り口に立っていることを示しています。
感情は思考よりも、身体とのほうが相性がよいようです。
感情を感じたいときには、感情について考えるのではなく、感情が身体のどこで・どんなふうに感じられるか探してみることが役に立ちます。
「なんだかイライラしているけど、このイライラって、今、身体のどこで感じている?」
そう尋ねると、胃のあたりが重いような感覚があることに気づくかもしれません。
「あ、胃のあたりが重いな」
と気づいて、そこに優しく手を当ててみると、じわっと涙がこみ上げてくるかもしれません。
「あ、イライラしていると思っていたけど、悲しかったのか」
感情は、思考のように筋道立ってはいません。
なので、こうした思いもよらない展開になります。
しかし、それが「感情の筋道」なのです。
何の脈絡もないのにおかしいなどという批判はナンセンスです。
身体の感覚に注意を向けることで、感情の軌道は、あるべき自然な方向へと流れていきます。
そこでは、文脈や筋道にとらわれることは帰って邪魔になります。
感情の軌道に任せて、ただ進むこと。
それによって、自分が本当に感じていたイライラの向こうの悲しみにたどり着くことができるのです。
「今、感情に注意と向けるのが怖いと思っているんだな。肩にすごく力が入っている」
こうした気づきも、とても大切なものです。
感情を感じる方法を知る前に、まずは自分が「どうやって感情を感じないようにしているか」「どうやって苦手な感情を避けているか」に気づくことがとても役に立ちます。
身体に力を入れるというやり方だけではなく、目線をそらす、話題を変える、笑顔を作るなど、感情の避け方には、人によってさまざまな方法があります。
こうした自分自身の感情や、感情に対する気づきを高めることを、emotional mindfulness(エモーショナル・マインドフルネス)と呼んで、心の健康を保つ鍵だとする考え方もあります。
(参考文献はこちら)
大人になると、こういうことは、カウンセリングの場でしかなかなか扱えません。
(子どもの頃から、十分に扱ってもらえないままだったという方も多いことでしょう)
それが、カウンセリングという営みを提供する大きな意義の一つだと思っています。