大学院の授業で、学生さんたちに、次のような課題を出しました。
「映画、動画、本、小説、歌、詩などの媒体を用いて、感情に関する授業で学んだことを解説するプレゼンテーションを行ってください」
グループごとに、全部で5つの発表が見られましたが、どれも大変興味深いものでした。
その発表の中の1つに取り上げられた動画がこちらです。
AEDP(加速化体験力動療法)という統合的心理療法では、セラピストが行う重要な介入として、「making implicit explicit(はっきりしていないものをはっきりさせる)」というものがあります。
感じられている感情を言葉にすることで、よりその感情の体験が促進され、クライエントの変化を後押しするという考え方からです。
でも、日本人というのは、この動画に見られるように、感情をはっきり言葉で伝えるというのは、なかなかやらないものです。
心のなかには、伝えたい想い(気持ち・感情)がこんなにたくさんあふれているのに。
何も語らず、おぼつかない指先でメロディを奏でる。
この父親の姿は、言葉などなくても、見ている人の心を打つのですね。
日本人はもしかしたら、文脈を捉える力に長けているのかもしれません。
例え、母親を亡くした父娘という背景を知らなくても、娘の結婚式にピアノを練習していた父親の姿を想像するためで、胸に熱く込み上げてくるものがあるでしょう。
その人が、今ここに来るまでに、どんな道のりを歩んできたのか。
そして、これから、どんな道のりを歩んで行くのか。
そうしたことに想いを馳せる時、言葉にするよりもずっと大きな感情の波が、私たちの心に押し寄せるのだと思います。
感情は表すだけでなく、こうして胸の内に抱えられ、しっかりと体験されることで、私たちに様々なことを伝えてくれます。
それは時に、言葉にできないような、言葉にしたら急に感動が薄れてしまうようなものなのかもしれません。
感情と言葉の関係は、なんだかとても複雑で、ただし、その複雑さを生きることが、カウンセリングの中でも大切なことだと感じました。