カウンセリングの共感のプロセスと、役者の演技のプロセス。
このふたつは、何だかとてもよく似ているのかもしれない。
そんなことを思わせてくださったのが、坂東玉三郎さんのホームページのこちらの記事です。(「私の考え」というトピックの「演技」をご参照ください。)
「演技とは、人間の感情を再構成することである。」
心理臨床界の大家である、前田重治先生のご著書にも芸と心理療法を結びつけたものがありますが、坂東玉三郎さんの文章も、心理臨床家にとって、はっとさせられる金言にあふれています。
「したがって、演技をする、つまり感情をリメイクしていくというためには、「感受」、「浸透」、「反応」の3つの過程が必要だということになります。ところが、「反応」だけが演技だと思ってる人が時々います。」
演技をそのまま、共感という言葉に置き換えれば、まるで臨床心理学のテキストにあってもおかしくないような文章です。
そして、もっと言えば、これは演技に限らず、人間関係を構築する上でとても大切なことであるとも言え、玉三郎さんの演技論の奥深さを感じることができます。
人間関係を作るときも、私たちは、ただ「反応」していればよいと、どこかで思ってしまっているかもしれません。
夫婦間のコミュニケーション、親子のコミュニケーション、教師や生徒の間で起こるコミュニケーション、カウンセラーとクライエントの間でさえ、「話を聴いてくれない」という訴えがたびたび聞かれます。
それは、この「反応」だけで、相手に対応し、「感受」と「浸透」のプロセスが、聴き手の側に失われていることによって起こっているのではないでしょうか。
相手の言っていることに答えるのは、もしかするとこの3つのプロセスのうちの「反応」だけなのかもしれません。
演技、という言葉を、相手の身になること、と置き換えることが許されるとしたら、相手がどんな感情を持っているのかを「感受」し、自分の心に「浸透」させてから、「反応」することによって、コミュニケーションは、今まで以上に相手を理解し、自分のことも理解してもらえる機会として、豊かになっていくような気がします。