「どうして臨床心理士になろうと思ったんですか?」
臨床心理士というのは珍しい職業なので、仕事の話になると、よくそんな質問をされることがあります。
この質問への答えが、今日のタイトルです。
私にも子どもの頃、母親が弟ばかり可愛がっていると感じ、「自分はいらない子なんじゃないか」と思っていた時期がありました。
その嫉妬で弟をいじめてしまい、また母親に怒られる。
誰も自分の気持ちをわかってくれない。誰も、私を見ようとしてくれない。
そんな思いを抱えていたある日、母の姉、つまり、私の伯母と自宅のキッチンで二人きりになりました。
母が私のことを伯母に相談していたのか、わかりませんが、そのとき、伯母が私にこう言ってくれたのです。
「その純粋な気持ちを忘れたらいかんよ」
その言葉に、私はハッとして、涙がこみ上げてきました。
私が伯母に、母とのことを話したわけではなかったと思います。
ただ、伯母といたとき、母とのことで気持ちが塞いでいたのは覚えています。
伯母も長女だったので、私の気持ちがわかったのかもしれません。
私の表情を見て、きっと何かを感じ取ったのでしょう。
伯母にそう言ってもらうまで、私は「お母さんにこっちを見てほしい」という自分の気持ちは、わがままで、親にとって面倒なもので、甘えであって、「お母さんを独り占めしたい」と思う自分が悪い子で、だから嫌がられるのは当然だと感じていました。
もっと優しくならなくてはと思っていましたが、弟に自分の居場所を譲ったら、自分の居場所がなくなってしまうのではないかと怖くもありました。
小さい心は、そんな気持ちでパンパンだったのです。
それを、伯母が「全部、純粋な気持ちだ」と、ぎゅっとくるんで抱きしめてくれたようでした。
伯母の言葉は、今でも私の心の中にありますし、これまでの人生でも折に触れて思い出してきました。
「あぁ、これはなんにもわるいきもちじゃなくて、もっていてもいい、しかも、忘れちゃいけない、大切なきもちなんだ」
と、当時の私が感じた、その瞬間の体験が真空パックで保存されているようです。
「弟をいじめて泣かせても、親を怒らせても、あなたの本質は、とても純粋なもの。それを忘れないでね」
伯母が、当時のまだ小さかった私にとっての、最初のカウンセラーでした。
そして、その体験が臨床心理士としての私の原点です。
本当の気持ちをわかってもらう体験が、一生の財産になり、自分を支えてくれる。
そう実感したからこそ、自分もこの体験を多くの人に届けようとしているのだと思います。