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〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

危機は転機。

精神科のクリニックで、日々患者さんにお会いしていた頃から、よく感じていたことです。

危機は転機。

当事者ではないから思えることなのかもしれませんが、病が患者さんに訪れた意味や理由が必ずあると感じられるケースは少なくありませんでした。

病を災難とみなして、自分を被害者とするのか。

病をよりよい人生を歩む転機として、自分の来し方・行く末を顧みるのか。

選ぶのは患者さん自身かもしれません。しかし、患者さんを支える周りの人の態度も非常に重要なものでしょう。

『奇跡の脳』は、脳卒中を克服した脳科学者の物語ですが、この本は病を抱えた人たちを周囲がどうサポートしたらよいのかということについても、多くの示唆を与えてくれます。 

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

 

「これまでのわたしではなく、これからのわたしを愛してくれる人々が必要だったのです。・・・わたしには、自分自身を作り直す努力を支えてくれる家族や、友人や同僚が必要だったのです。・・・右脳が支配的になった人格を認めてくれる人々が必要だったのです。勇気づけてくれる人たちです。まだ自分は価値があるのだということを、認識する必要がありました。」(pp.180-181)

「うまく回復するためには、できないことではなく、できることに注目するのが非常に大切。・・・だからこそ、手にした勝利を毎日のように喜んでくれる人が必要でした。」(pp.188-189)

「お見舞いにきてくれた人々が、前向きのエネルギーを見せてくれることが大切なのです。・・・逆に、ものすごく心配なのよぉ、という負のエネルギーを発散しながら入ってくる人に対応するのは、とても辛い。与えてくれるエネルギーがどんな種類のものなのか、責任を持ってください。まゆを優しく上げて心を開き、愛をもたらしてください。極端に神経質で、心配しているか怒ったように見える人たちは、治療には逆効果なのです。」(p.193)

日本社会ではまだまだ、「精神科受診」に対する偏見や誤解が根強く、「心を病むなんて弱い」「身内に精神科の患者がいるなんて恥ずかしい」という恥や情けなさといった感情があるため、「危機は転機」などと楽観的に考えることの邪魔をします。

しかし、恥の感情に基づいた深刻さは、決して治療的な効果を生みません。

恥は、恥を感じる個人を引きこもらせ、社会とのつながりを奪い、孤独に陥らせる感情だからです。

病という危機に陥ったことは、決して恥じるようなことではないと考えることが大切で、その危機は必ず脱することができるのであって、そうしたら、それは転機になる。

患者さん自身だけでなく、患者さんを支える周りの人たちが、こんなふうに思えることは、お薬よりも心理療法よりも、患者さんの力になることなのかもしれません。