自分探し、という言葉がキーワードになった時代がありました。
もちろん、これは別に過去の話というわけではなく、人生のある時期に、ふと「自分とは誰か、自分とは何か」と自らに問い続ける時代があるというほうが、適当かもしれません。
「本当の自分になる」なんてあり得ないことだ。
そもそも、そんな考えからスタートする人もいるでしょう。
精神分析的な心理療法では、上記のような視座に立つ人が多いですが、クライエント中心療法やゲシュタルト療法といった、現象学的な考えを基礎に持つ心理療法家には、わりと「本当の自分」の存在は認められています。
ゲシュタルト療法の創始者であるパールズという人は、心を病む原因の多くは、自己実現傾向と現実適応のための努力とのあいだの葛藤に由来する、と指摘しています。
現実は、さまざまな役割を私たちに要求してきます。
その役割と、自分であることのあいだに、大きな乖離が生まれてしまったとき、人は心のバランスを失ってしまうというのです。
また、こういう場合もあるかもしれません。
なりたい自分の像と、現在の自分とがあまりにもかけ離れてしまっているとき。
こんなとき、人は自分を見失うというより、自らの手で自分を捨ててしまうのかもしれません。
自己実現、と聞くと、なんだかとても素晴らしいことのように感じますが、実際は何とも現実的な、地に足のついたことのようです。
自己実現とは、理想の自分になることではなく、本来の自分に還ることです。
“be who you are, not who you are not”
自分ではないものになるのではありません。
自分になるのです。
訳すと、こんな感じでしょうか。英語のほうが、やはり語感がいいですね。
自分に厳しくなるとき、人と比べて自分を貶めてしまうとき、自分を過信してしまうとき、覚えておきたいことばだと思いました。

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