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emotion laboratory

感情は人生の羅針盤

日本語とこころ。

言葉が滅びるとき、文化もまた滅びる。

そんな話を聞いたことがあります。

 

文化と言うと大袈裟ですが、その言葉が示す生き方・態度・姿勢が失われていくという意味では、小さな文化的な死ということもできると思います。

 

心の持ち方や人が変化していくプロセスについて勉強していると、外国からやってきた新しい言葉たちに出会います。

resilience(レジリエンス)、mindfulness(マインドフルネス)、transformance(トランスフォーマンス)…などなど。

一方で、我慢、忍耐、辛抱という言葉たちは、すっかり鳴りをひそめています。

 

これらの言葉は、戦時中のイメージがつきまとうからでしょうか。

言葉だけではなく、我慢や忍耐、辛抱を教えるという文化自体が、衰退しつつあるようです。

これらの言葉が意味する態度は、ただただ、自己犠牲的で抑制的であるというものではありません。

そこには、歯を食い縛る強さ、希望を持ち続ける力、未来を諦めない意思、信念を貫き通す美学が宿っています。

何かを達成したり、褒められることによってだけではなく、辛いことに耐えたからこそ、生まれる自信もあるはずです。

耐え忍ぶ、という言葉から想像される姿は、みすぼらしさや惨めさを伴うかもしれません。しかし、清貧という言葉の潔さにも似た、美しさがあると思います。

 

ある時、こんなことにも、ふと思い至りました。

辛抱は、辛さを抱えると書きます。

これは、生きていく上でとても大切な力です。

 

それを示す言葉がなければ、その価値を伝えることは難しい。

だからこそ、豊かで役立ちそうな様々な概念が外国から多く輸入されても、それを一旦、日本語で考えるということや、もともと日本語として存在する言葉の語感を丁寧に吟味し、活用することを、忘れないでいたいと思います。

 

辛抱の大切さがよくわかる一冊です。

 

道をひらく

道をひらく

 

 

毒にも薬にもなる?:議論を呼ぶうつ病治療の試み

マジックマッシュルームに含まれる成分、シロシビン(psilocybin)を、うつ病の治療に活用する。

そんな画期的ではありますが、議論を呼びそうな研究がロンドンで行われました。

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アメリカの抗うつ薬と言えば、プロザックが有名ですが、プロザックがよく効くのはうつ症状に苦しむ人の5分の1と言われています。そんな中、つらいうつ症状を緩和させるために、ドラッグに手を出してしまう人も少なくないようです。

うつ病の患者さんでは、内省(self-reflection)にかかわる脳の部位が過剰に活性化することが知られています。この過剰な活性化が、うつ病に特徴的な症状である反芻やネガティブ思考に影響しているのではないかと、専門家は指摘しています。

マジックマッシュルームのシロシビンという成分は、これと反対の作用を持つため、うつ病にどのような効果を持つかを検証する研究が行われたようです。

研究の対象者は、すでに2つの治療法を試して効果を感じられなかった12名の人たちでした。調査は次のような形で行われました。

1. シロシビンを2回内服した後、MRIで脳をスキャンする。

2. 調査開始時から3ヶ月間、定期的にうつ症状に関する質問に回答する。

そして、結果は以下の通りです。

1. 1週間後、12名全員がうつ症状が改善したと報告し、3分の2の人はなんと、うつ症状から完全に脱しました。

2. 3ヶ月後の改善率は58%でした。5名は寛解状態を示した一方、5名は再発したのです。

プロザックに反応のよい人たちが、うつ病の患者さんの5分の1であることを考えたら、とても高い改善率と言えるかもしれません。しかし、この研究には、統制群がないこと、対象が12名と少ないことなどの課題があることも指摘されています。1名を除いて全員が、ドラッグの使用によるうつ症状の緩和を体験していたので、そうした期待感がプラセボ効果を生み、影響した可能性も否定できません。

オックスフォード大学のPhilip Cowen博士は、今回の結果を支持しながらも、更なる研究の積み重ねの必要性を指摘しています。研究者らは、シロシビンが既存の治療法ではなし得ない何事かをなし得るのか、あるいは、シロシビンに注目し、その効果を追求するだけの正当性を持つに十分な特異な作用を持つのか、といったことを記録する必要があるでしょう。

この研究を行ったインペリアル・カレッジ・ロンドンのRobin Carhart-Harris氏は、シロシビンには特異な効果が期待できると考えています。彼は、シロシビンによって心のうちに秘められた過去の記憶や、かつて経験した人間関係をはじめとするその他の課題(issues)が、ベールを脱ぐことになり、それは心理療法と同等の働きを持ち、効果はもっと速く現れるだろうと述べています。

しかし、これには大きな副作用も伴うかもしれません。私たちは、過去のつらい出来事に蓋をしたり、忘れたりしておけることによって、現実に適応しているという側面もあるからです。

実際、この実験はセラピストがそばにいる状況で行われ、幻覚作用がピークに達した際には、被験者たちをサポートし、後でその体験への理解を促進する作業を行えるようにセッティングされていたということです。

鎮痛剤のモルヒネもアヘンから抽出され、より中毒性の強いヘロインはモルヒネから作られます。

うつ病に対するさまざまな治療法が検討されるのは、とても心強いことですが、どんな治療法も使い次第で、毒にも薬にもなりうる(もちろん、心理療法も例外ではありません)のだということは、心に留めておく必要があると言えそうです。

 

 

犬のココロ。

犬は、飼い主に冷たくした人からの餌は食べない。

これは、とても興味深い研究結果です。ちなみに、京都大学で行われた研究でした。

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この結果は、犬に、人(飼い主)が置かれた心理社会的な状況を理解する能力が備わっていることを指します。

ただし、飼い主に協力しない人からの餌を食べないのは、必ずしも忠誠心や主従関係が反映されたものではないかもしれません。

犬はオオカミから幼形進化する過程において、人間と協力関係を築いてきたと言われています。

協力関係にある仲間は、助け合うことが普通です。助け合い、ともに生き延びることが共通の目的となっているのです。

飼い主に冷たくした人は、自分の仲間ではない。その人から餌をもらうのは、“危険かもしれない”という警戒心が働くためかもしれません。

いずれにしろ、犬のココロに近づいた興味深い研究だったのでご紹介しました。

動物のココロについては、こちらの本もおすすめです。

動物感覚―アニマル・マインドを読み解く

動物感覚―アニマル・マインドを読み解く

 

 

身体が語ること

相手の感情を読み取ろうとするとき、私たちは相手の表情に注目します。

それはもちろん有効な手段ですが、こちらの記事では、とても強い感情を、私たちは、表情よりも身体の動きで表していると指摘されています。

healthland.time.com

研究者たちは、強い感情を喚起するような場面を見た被験者たちの、①顔だけに注目する、②身体だけに注目する(顔は除く)、③顔と身体の両方に注目するという、3つのやり方で、被験者が感じている感情を同定しました。

その結果、②と③のケースで、①の場合よりも感情を同定しやすいことが判明したのです。

この研究で、もうひとつ興味深かった点は、被験者たちは測定された程度よりずっと、表情で感情を表していたと思っていたという点です。

“表情がすべてという認識は、まったくの幻想です”と、研究者たちは指摘しています。

研究者たちは、表情筋をオーディオ・スピーカーになぞらえています。つまり、あまり強い感情が喚起される(ボリュームが大きくなりすぎる)と、サインが乏しくなって表現されているメッセージがわかりにくくなる(音が割れて聞き取りにくくなる)のではないか仮定しているのです。

確かに、個別の情報に注目しているよりも、より広い視座に立ち、いくつかの情報を統合するほうが、真実に近い答えを導きだすことができるというのは、感覚的に正しい感じがします。

これまで、自閉症や脳神経系の異常により、他者の気持ちを読み取りづらい人たちに対しては、表情から感情を読み取る訓練をすることが一般的でしたが、今回の研究からは、人が全身で示している情報に注目することの有用性が示唆されたと言えそうです。

 

脳画像から感情を読み取る

脳画像から、感情を読み取る技術は、近年目覚ましい発展を遂げています。

脳神経科学の進歩と感情理論の発展は切っても切れない関係にあり、感情がどのように働くかを知るために、脳神経科学研究の知見は、欠かせないものになっています。

今回は、カーネギーメロン大学で行われた興味深い実験をご紹介します。

healthland.time.com

被験者として研究に協力したのは、カーネギーメロン大学で演劇を学ぶ学生たちです。

Method actingという演劇手法を用いて、彼らには9つの感情(怒り、嫌悪、恐怖、欲望、幸せ、誇り、恥、羨望)を身体でしっかりと感じ(embody)、体現できるよう練習したのち、脳画像をスキャンする機械の中に入って、それらの感情を表してもらいました。

メソッド演技法 - Wikipedia

その結果、なんとコンピュータによる脳画像診断は84%の確率で、彼らが表現した感情を読み取ることができたのです。

しかし一方で、他の人のデータを使用したときは、判定の精度が下がり、汎用性は高くないことも示されました。被験者Aの感情を、被験者Bの脳画像のデータを元に読み取ろうとすると、正確さは71%に低下したのです。

さらに、この研究から、感情を区別する4つの指標が明らかになりました。

①ポジティブかネガティブか

脳画像による判定でも、幸福感(happy)と恥(shame)、悲しみ(sadness)と誇り(pride)は混同されることなく、区別されました。

②覚醒(arousal)の程度

例えば、怒り(anger)と悲しみ(sadness)は、エネルギー量の点で判別可能です。

③社会的関連性

怒りや羨望には他者の存在を必要としますが、嫌悪は個人単独でも生じます。

④生殖における役割

欲望(lust)は、他の感情とは明らかに異なる画像を示しました。これは生殖において決定的な役割を果たすためだろうと、研究者は指摘しています。

この実験は、まるで胃のレントゲン写真を撮るように、脳をスキャンすることによって感情の状態を探ろうとする試みです。

現在、心理臨床家はさまざまな心理検査によって、人の感情の状態を探ろうとしていますが、それが脳画像にとってかわるといった事態も、将来的には起こりうるのかもしれません。

 

依存症と気質の関係について

三つ子の魂百までという諺が、日本語にもありますが、ニュージーランドで行われたある研究では、3歳のときの様子を観察することで、その子が30代になったときに、薬物やギャンブルへの依存症に陥る可能性を予測できるという結果が示されました。

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この研究は、依存症のルーツを探ることを目的に、およそ1000名の被験者の誕生から32歳までの心理的・経済的・知的なライフコースを追跡する形で行われました。

このような長期的な研究を行うことにより、ギャンブルや薬物といった要素が衝動的な行動やうつ病を引き起こすのか、もともと落ち込みやすく衝動的な性質を持った人が依存に陥りやすいのかといった、“ニワトリが先か卵が先か”という現象に対する示唆を得ることができます。

研究者たちは、20代や30代で依存症になった人たちには、3歳のころから、感情が移ろいやすく、衝動的でわがままなところがあり、ネガティブ感情が比較的高いなど自己コントロールの能力に欠ける気質がみられたことから、従来よりも低年齢の被験者を対象とした依存症の予測因子に関する研究が必要であると主張しています。

ちなみに、なぜ上記のような気質とギャンブルや薬物への依存とが関連するのかについては、まだはっきりとしたことはわかっていません。

しかし、こうした気質を持つ人たちは、そうでない人たちに比べて、ネガティブな感情に苦しめられやすいとされています。ギャンブルは、脳の報酬系に作用し、一時的に快感情を高める働きがあるため、つらい感情に苦しむ人たちにとって、ギャンブルは一種の“ストレス・コーピング”となってしまうのです。

京都大学こころの未来研究センターのPDFへのリンクです。http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/kokoronomirai/pdf/vol2/Kokoro_no_mirai_2_05.pdf )

ギャンブルや薬物はネガティブな感情からの一時的な逃げ道になる一方で、衝動のコントロールを低下させる要因にもなります。この2つが組み合わされると、苦しい感情から逃避するためにギャンブルをし、衝動性のコントロールが低下するために、多額のお金をつぎ込む、といった悪循環が発生してしまうことになるでしょう。

このことから、研究者たちは、ギャンブルや薬物、飲酒などへの依存の治療のためには、“行動の修正”だけでは不十分であると指摘しています。

ある心理学者も、“行動は感情に導かれる”と主張しています。行動を生み出すもととなる感情や、感情にかかわる気質へもアプローチすることが、依存症に限らず、多くの精神疾患や問題行動の治療や修正において、大切な役割を果たすと言えるでしょう。

また、自己コントロールの能力は、IQのように一生を通じて一定である性質に比べて、変化しやすいもの、つまり後天的に高めることができるものであることも知られています。その証拠に、3歳の頃に自己コントロール能力の乏しさが目立っていた子どもも、成長するにつれて、そうした状態から脱する(outgrow)こともわかっています。

衝動的で、傍若無人で、わがまま、というのは、どの子どもにもある程度みられるものですし、3歳の子どもに過剰な自己コントロールを求めることは、かえって悪影響にもなりかねません。

子どもの気になる様子をすぐに異常や欠陥とみなすのではなく、かといって無視したり放置したりするのでもなく、ある程度の楽観を持って、注意深く見守り続けることが大切なのでしょう。

セラピーに必要なストレス?

あらゆる心理療法には、それぞれの強みと弱みがあります。

そのため、ひとつの流派のやり方にこだわらず、いくつかのアプローチを併用したり、組み合わせたりしてクライエントとともに問題解決を目指す、統合的あるいは折衷的な立場をとる心理療法家も少なくありません。

こちらの記事では、認知行動療法(CBT)のトレーニングを受けた被験者たちが、ストレスを感じる状況では、せっかく身につけた“リフレーミング”という認知の枠組みを変える方法を活用することができなかったという、残念な実験結果が紹介されています。

強いストレス状況においては、人はよりなじみのあるパターンの対処を自動的にとろうとしてしまい、セラピーで練習したような論理的な考え方は影を潜めてしまうという指摘がされています。

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CBTの効果を阻害した要因とは、一体なんだったのでしょうか。

ひとつには、今回の実験で行われたのは、ストレスの低い状況から高い状況までを順に並べて、その一つ一つにストレス耐性を育むような継続的な練習(専門的にいうと、不安階層表に基づいたエクスポージャー)ではなかったことが挙げられます。

それが、今回の記事のタイトルにも反映されており、心理療法において身に着けたストレス対処法を、日常生活で役立てるものにするためには、例えば、友人から批判されるといったストレス状況だけでなく、大勢の人が見ている前で上司から叱責されるといった、より“ストレスの高い状況”を想定したCBTの訓練が必要であるということです。

これも確かに一理あるでしょう。

ただ、記事の中心的なテーマにはなっていないようですが、個人的により重要に感じるのは、今回の実験では、CBTを用いて何にアプローチするのかという点が曖昧であることです。

CBTは、問題や課題に対する捉え方を変えて、これまでとは違った行動を取り、その結果、これまでよりも適応的なフィードバック(手応え)を得て、行動の変容を推し進めていくというアプローチです。

恐怖やストレスの程度は変わらなくても、物事の捉え方を変えることによって、行動変容は起こると思われます。しかし、それから、恐怖やストレスの程度に変化がみられるまでには若干のタイムラグが生じるでしょう。練習によって、行動が強化されていく中で、恐怖に対する安心感が学習され、ストレス反応が和らいでいくというプロセスが、一般的なように思われます。

つまり、感情やストレス反応に対する間接的なアプローチであるCBTという性質を考慮した、実験デザインでなくてはいけなかったのかもしれません。

こうした弱みを補うべく、近年ではマインドフルネスなどの自律神経に直接働きかける手法や、感情調整の方法を取り入れたCBTが新たに開発されています。

物事の捉え方(認知・思考)、感情、身体の反応。これらのいずれかを入り口としながらも、最終的にはこれらすべてに働きかけていくこと。

それが、心理療法の目指すべき形なのかもしれません。

表情に普遍性はあるのか:P.Ekmanへの疑問符

Paul Ekmanという心理学者は、表情で表される感情は、文化や国籍を越えて共通していることを明らかにしましたが、近年では、この説に異論を唱える研究もみられています。感情の表出は、文化的な影響を大きく受けるというのです。

time.com

この記事では、ナミビアのヒンバ族に、6種類の感情を表現した表情の写真をみせ、分類してもらうことを試みました。

研究者は、それらの写真は示されている感情の数に沿って、6に近い数に分類されるだろうと予測していましたが、なんとヒンバ族の人々は6よりもはるかに多い種類に写真を分類し、1つの表情にいくつもの感情をみていることもあったそうです。

これは、音声による感情表現においても同様で、ある人は喜びの声と認識したものが、他の人には、よりネガティブな感情を表すものとして認識されたそうです。

ヒンバ族 - Wikipedia

西洋人が一般に幸せを表現していると認識する表情も、ヒンバ族にとっては、幸せの表現でもあり、不思議がる表現でもあると認識されるようでした。

Paul Ekmanもフィールド研究を通して、表情の普遍性を明らかにしたはずですが、なぜこのような異なる結果が示されたのでしょう。

Ekmanは、被験者に感情を同定させる際に、今回の実験のような自由度の高い形ではなく、6つの表情に感情を表すどの言葉があてはまるかを選ばせたり、特定の表情を表すような状況のシナリオを選ばせるといった形をとっていました。

これによって、本来は存在しない“感情の普遍性”がほのめかされたのではないか、とヒンバ族のフィールド研究を行った研究者たちは指摘しています。

しかし、馬も人のポジティブな感情とネガティブな感情を見分けることが知られているため、表情を読み取ったり表情で感情を伝えるときには、種族や国籍を越えた何らかの共通項があると考えられます。 

emotion-lab.hatenablog.com

例えば、エスキモーには“雪”を示す言葉がたくさんあるように、ヒンバ族には、西洋人が1つの感情しか読み取らない表情の中の複数のサインに注目しているという可能性もあるかもしれません。

更なる研究が待たれるところです。