感情は、長らく心理学の歴史において、その価値と機能と役割の重要性を見過ごされてきました。
それは、心理学を科学的な学問とする場合、行動や言葉のように観察したり、測定したりすることが可能なものを対象とする必要があったからです。感情は、確かに感じられ、そこにあるものであるにもかかわらず、見ることも触れることもできないために、研究の対象にすることが難しかったのです。
しかし、近年では、脈拍や皮膚温などの生理学的な指標やfMRIによって、感情の働きを数値や脳画像として測定することができるようになり、感情が一気に心理学の世界の主役に躍り出ようとしています。
今回は、怒りと脳の関係に関する記事をご紹介します。
脳に関する分類の一つとして、脳が右脳と左脳に別れていることは、比較的よく知られていることでしょう。
一般には、左脳は論理性、右脳は感情を司ると思われていますが、これも脳に関する研究が進むにつれ、この2つの部位は、もう少し複雑な働きをしていることが明らかになってきました。
例えば、およそ35%の人は、傷つきや怒りといった感情を左脳で処理していることがわかりました。これは、トラウマとなるような出来事を体験した人に多く見られる状態でもあります。この理由としては、こうした人々が、自分が苦しんでいる理由を論理的に意味づけようとするためということが考えられるのですが、一方で、左脳にこうした負担をかけると、記憶力が低下してしまうことも明らかになりました。
以前、長年かつ大量のアルコール摂取が、感情処理のプロセスを変えてしまうことを書きましたが、トラウマになるような大きな出来事や長年の飲酒習慣で蓄積された負荷に影響を受けた脳は、何とかその状態に適応しようとして、一時的あるいは継続的に、本来はある部位が受け持つべき役割を、別の部位へと移行させるようです。
また、感情処理のプロセスについては、利き手との関連を指摘する研究もあります。
それによると、左利きの人と両利きの人は、左脳と右脳の働きがアンバランスになりやすく、怒りっぽいという結果が出ているそうです。
昔は、左利きを右利きに直す習慣がありましたが、これはただ、他の人々と同じにするためではなく、感情調整の観点から何らかの意味があったのかもしれませんね。
ただし、この“怒りっぽい”ということを、ただネガティブに捉えるのはもったいないような気がします。多くの芸術家は、このような感情のエネルギーを、作品という形で昇華しています。
左脳が司る言語も、右脳が司る感性も、感情を内包するための器です。
大切なのは、怒りっぽくならないことではなく、人より多い感情のエネルギーを持って生まれてきたことを認識し、その感情を抱えておくための器を、いかに自分の人生の中に見つけることができるかということのような気がします。