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〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

アルコールが脳に与える影響:感情の判断に関して

アルコールへの依存は、心身の健康を脅かすだけでなく、社会的な信用や日常の親密な対人関係にも悪影響を及ぼすことが知られています。

こちらの研究では、アルコールには、脳内で起こる感情の処理を仕方を変えてしまう作用があることが明らかになりました。

healthland.time.com

感情の処理の仕方が異なることによる弊害は、次の通りです。

・他者の表情にあらわされる感情を、しばしば読み間違ってしまう。

・他者の強い感情表現に対して、鈍感な、あるいは平板な反応をしてしまう。

・衝動性になりやすく、社会的な規範が欠如しがちである。

・攻撃的になりやすく、言葉で他者を攻撃しやすくなる。

 

一般に、感情は扁桃体というアーモンド形をした、脳の深いところにある部位で生じることが知られています。健常な人の脳では、他者の表情から感情を読み取る際にも、この扁桃体が活性化します。

扁桃体 - Wikipedia

しかし、長期のアルコール依存の既往がある人の脳では、この扁桃体の働きが鈍くなり、代わりに前頭前皮質が活性化することがわかりました。

前頭前皮質 - Wikipedia

これは一体どういうことなのでしょう。

ヒトの身体には、損傷などにより生じたある部位の機能不全を、別の部位が補う働きがあることが知られています。ここでも、本来は扁桃体で行われるべき、感情の情報処理を、前頭前皮質が担っていると考えられます。

端的に言えば、アルコール依存の既往を持つ人にとっては、“感じる”べき感情が、“考える”べき対象に代わってしまうということなのかもしれません。

この研究からは、アルコール依存の既往を持つ人たちが、一般の人よりも他者の表情による感情表出をやや過剰に評価したり、評価するのにより長い時間がかかっていることが明らかになっています。

パッと見て、パッとわかるというのが、扁桃体での感情の情報処理ですが、飲酒によるダメージが、脳に感情をより複雑な刺激として認識させてしまうようです。

さらに、研究者たちは、本人にはアルコール依存の既往がなくても、その家系にアルコール依存の既往を持つ人が多い場合にも、同じように扁桃体の機能不全が生じることを明らかにしました。

これは、その家系に脈々と受け継がれる飲酒の習慣が、子どもにまで影響を及ぼし、扁桃体の機能不全を起こしやすい体質を形成してしまうリスクを示唆しています。

相手の感情をつかみにくいというのは、社会生活を送る上で、目に見えないハンディキャップとなります。アルコールの問題は、私たちが思っている以上に、持続的なダメージを脳に与えることを知り、根気強く向き合っていく必要があると言えるでしょう。