「今の涙は、何て言っていると思いますか?」
「今の涙は、どんな涙ですか?」
セッションの中で、時折クライエントさんに「?」という顔をさせてしまう質問です。
でも、クライエントさんが流す涙の質をセラピストが正しく把握しておくことは、とても大切なことです。
なぜなら、涙は悲しいときにだけ流すものではないからです。
恐ろしくて心細いとき。
悔しくて悔しくて仕方ないとき。
ホッとして身体が緩んだとき。
自分に対して誇らしさや、思いやりを感じるときに流れる涙もあります。
クライエントさんが泣いているからと言って、セラピストが、その涙の質を話の文脈に合わせて勝手に判断するのは、間違いや失敗が起こりやすいと感じます。
なぜなら、涙を始めとした非言語的な身体のサインや、流れている涙にまつわる感情体験は、話の文脈とは関係ないところから、不意に起こってくることがあるからです。
クライエントさんに涙の質を尋ねることには、もう一つ理由があります。
それは、クライエントさんご自身にも、自分の涙がどんな気持ちからくるものなのか、自分の涙に言葉があるとしたら、どんなことを話そうとしているのか、気づいて、受け止められるようになっていただきたいからです。
クライエントさんが慌てて涙を止めようとするとき、私はこんなふうに言うこともあります。
「やっと出てこれた大事な涙だと思うので、我慢しないで流してあげてください」
私たちは、人前で泣くことを恥ずかしい、よくないことと感じがちです。
しかし、カウンセリングの場は例外です。
カウンセリングの場では、涙は時に、言葉よりも大切な意味を持ち、大きな力を持つものです。
たくさんの言葉よりも、たった一粒の涙の中に、それまで語り得なかった気持ちが詰まっているのです。
クライエントさんと一緒に、涙の質を捉えられるようになると、セッションの流れがぐっと加速する感じがあります。
より速く、より深いところにある体験に、到達できるような感じでしょうか。
なので、きっと、これからも私は、クライエントさんを戸惑わせたり、困らせたりすることを承知の上で、この質問を続けていきます。
「今の涙は、何て言っていると思いますか?」
「今の涙は、どんな涙ですか?」
そして、そのうちにクライエントさんが、この質問をご自身に投げかけてくださるようになれば、私の仕事の一つが、終わったと言えるのだと思います。