うつの患者さんに「頑張れ」と言ってはいけない、という通説があります。
でも、この通説をそのまま鵜呑みにするのではなく、この「頑張れ」の込められているニュアンスは何なのか、一旦立ち止まって、よくよく考えてみる必要があります。
「頑張れ」という言葉は適切でなくても、「うつの患者さんが励ましを必要としていない」とか「うつの患者さんを励ましてはいけない」という意味ではないからです。
「大丈夫、きっとよくなる」
「病院に来て、きちんと薬も飲んで、生活習慣にも気をつけているね。調子に波があるから、不安になるかもしれないけど、いい調子だよ。よく頑張っているね」
といった医療スタッフからの励ましは、患者さんの心に希望の火を灯すことになるはずです。
一方で、冒頭の「頑張れ」に「もっと大変な人もいるんだから」「甘ったれるな」「そのままじゃダメだ」などのニュアンスが込められているとしたら、それは毒にはなっても薬にはならないでしょう。
励ましとは、その相手の中にある可能性を見出したり、相手の心に希望の火を灯すことです。
励ますって、単に「頑張れ」とか「負けるな」って言うことじゃなくて、すでにある努力や頑張りが「自分には見えるよ」とか「それを見て、自分もこんなに勇気づけられた、力をもらった」って伝えることなんじゃないかと思う。
— shiho📜自由が丘カウンセリングオフィス (@emotion_lab) 2020年11月6日
相手を否定するような「頑張れ」は、励ましではなく、自分の中の不安や憤りの押しつけになってしまいます。
うつ病の患者さんが必要としているのは、真の意味での励ましであり、相手の不安や憤りをぶつけられる体験ではありません。
「あなたがよくならないと、私が困るんだから、頑張って」ではなく、「あなたがきっとよくなると、私は信じている。だから、一緒に頑張ろう」というメッセージが必要です。
こうした真の意味での励ましを、私たちはどれだけ受け取って来れたでしょうか。
受け取ったことのないものを生み出すことは、簡単なことではないかもしれません。
カウンセリングを学ぶ過程では、「励まし」に近いニュアンスを持つものとして「肯定」がありますが、肯定を「そのままでいい」「あるがままでいい」とする姿勢だと考えている人には、肯定的な態度の中に、この「励まし」のニュアンスを含めるのは難しいでしょう。
励ましには、今ここからもう少し未来を見る視点や、今はまだここに現れていないものへの焦点づけも含まれているように思います。
励ましは、相手をただ褒めることとも異なります。
励ましには、単なる評価を超えて、相手の力を引き出すようなニュアンスや、相手が自分の中にある可能性を信じることができるような働きかけが伴います。
励ましは、英語でempowermentとも言われます。対人支援に関する文献では、「エンパワメント」という言葉を見かけることも多くなりました。
この「相手の中にpowerがある状態にすること」というのが、励ましが持つニュアンスの一つです。
真の励ましとは何か。それを考える上では、こちらの本も参考になるかもしれません。
“相手を見かけどおりに扱えば、その人の能力を生かすことができない。それに対し相手の可能性を見抜いて接すれば、その人が持っている能力をぞんぶんに引き出すことができる。(ゲーテ)”
“生きていると、心のともしびが消えそうになることがある。だが、誰かに優しい言葉をかけてもらうと、炎はふたたび燃えさかる。(アルベルト・シュバイツァー)”
“人はみな、「私の存在価値を認めて欲しい」と書かれた目に見えない標識を首にぶら下げている。人といっしょに仕事をするときは、この標識を絶対に見落としてはいけない(メアリー・ケイ・アッシュ)”
本の中にある言葉から、自分が伝えたい励まし、自分が受け取りたい励ましのニュアンスを探してみてください。