Talk to Your Heart

〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

「自分の感情を大切にする」ときの注意点。

「自分の感情を大切にしましょう」と、私もよく言ってしまうのですが、実は、この表現は少し大雑把すぎると感じています。

というのも、私たちに心の中では、少なくとも異なる役割を持った3つの感情が存在しているからなのです。

①「大切にしたい」感情:冒頭の意味で使われる感情です。しかし、これは次の②や③の感情によって隠されていることも多く、本人にも自覚されていないこともあります。

②赤信号感情:①の感情を感じることに対する不安、恐怖、恥などの感情です。①の感情を感じそうになると、「それを感じると危ない!」と、①の感情を止めようとする赤信号のような働きをします。

③防衛的な感情:自分の心や、大切な相手とのつながりを守るために、表に出ている感情です。大切なものを守るという役割があるので、感じても感じても「スッキリして消えてしまう」ことはありません。

例えば、次のような感じです(架空の事例です)。

パートナーから理不尽なことで責められているある女性は、カウンセリングの場面でさめざめと泣き続けます(③防衛的な感情:悲しみ)。身体に現れるサインを観察すると、鋭い眼差しや腿の上で拳を強く握る様子(①:「大切にしたい」感情:怒り)が見られます。怒りがあることは、本人もうっすらと自覚しています。でも、「怒っても、その何十倍の怒りが返ってくるだけです。彼は怒ると本当に怖いんです」(②赤信号感情:怒りを出すことへの恐怖や不安)

理不尽なことに対して、「やめて」と言えない関係は、健全ではありません。

この例に出てくる女性とのカウンセリングでは、何とか彼女の中にある怒りの灯火を消さないようにして、この怒りを燃料にしながら、パートナーから離れるための知恵や行動が出てくるように手伝う必要があります。

この場合、大切にしたい感情とは「悲しみ」でも、「恐怖」でもなく、「怒り」なのです。

しかし、①の「大切にしたい感情」はこの例でも見たように、実に巧妙に隠されていることが多いです。

こんなときは、ちょっと現実的でない質問を自分にしてみると、大切にしたい感情のヒントが得られることもあります。

「もし、相手が理不尽なことを言わず、穏やかに自分の話を聴いてくれるとしたら、何て言いたい?」

①の大切にしたい感情は、安心で安全な環境が保証されているときや、外の世界は安心で安全だと信じようとクライエントさんが勇気を振り絞ったときに、ようやく姿を見せます。

自分の本当の気持ちがわからないときは、「その状況が安心で安全なものだったら、自分がどんな気持ちになるかな」と、自分に尋ねてみるのもいいかもしれません。

相手の本当の気持ちを聞き出したい時も、同じことが言えます。

②の赤信号感情や、③の防衛的な気持ちではなく、①の大切にしたい気持ちを聞き出すときにも、安心で安全な環境が欠かせません。

「相手が本当の気持ちを言ってくれない」と腹を立てる前に、「自分は相手が安心できるような対応としているかな」と顧みてみることが大切です。

こんなふうに複雑にできているからこそ、私たちは、自分の繊細な心を守ることができるとも言えるのです。