カウンセラーのクライエントさんへのかかわりは、しばしば、童話『北風と太陽』に例えられます。
旅人が着ているマントを、クライエントさんの心の防衛に見立てて、そのマントを何とかして脱がせようとする、“挑戦的”で“対立的”な「北風のアプローチ」。
一方、旅人がマントを必要としなくなるよう、あたたかさをまず先に提供して、旅人が自分の力でマントを脱げるように働きかける「太陽のアプローチ」。
童話の中では、太陽が勝つわけですが、カウンセリングの世界では、両方のアプローチが存在しているというのが現実です。
さらに言うなれば、3つ目のアプローチもあります。
それは、「そのマントの着心地について話す」というアプローチです。
防衛を「否定するか、肯定するか」という二者択一ではなく、
「しっかりした、いいマントですね。着心地はいかがですか」
というふうに、心を守っているあり方そのものに目をとめる。
そうすると、クライエントさんも、自分の心を守って来た防衛を、ちょっと客観的に見ることができるようになります。
「そうですね。しっかりしているのはいいのですが、着ていると重たくて、正直、窮屈なんです」
「サイズも合わないし、古臭くて、本当はもう着ていたくないんですが、長いことこれを着てきたし、仕方ないのかなと思います」
「これをずっと着てきたから、新しいものに挑戦するのは、ちょっと怖いんですよね」
こんなふうに、マントについて話す(心を守ってきた防衛について話す)と、クライエントさんはちょっとリラックスした雰囲気になります。
そして、その防衛に対する認識や気づきが生まれたり、その防衛をやめてどうなりたいのか、防衛があることで困っていることは何なのかを、自然に話してくれます。
北風によってでも、太陽によってでもなく、旅人がマントの着心地をよく味わって、それを着続けるかどうかを選ぶプロセスがあるというのが、童話とは違う、リアルなカウンセリングの面白さだなと感じます。
最近のカウンセリングでは、この「マントの着心地」を話し合う時間も増えました。
みんな、いろんなマントを着て、自分の心を守っている。
マントを脱ぐことだけが大切なのではなく、そのマントが果たしてきた役割やそれに対する愛着を話すことにも、しっかり時間をかけたいものです。