他の人や物の力に頼ることは、「甘え」だとか、「依存」だと言われ、時にネガティブなニュアンスを帯びることがあります。
しかし一方で、「甘え上手」や「依存先がたくさんあること」が、大人には必要だと言われることもあります。
この「甘え」や「依存」という言葉を聞くと、私は昔勤めていた精神科クリニックの院長の言葉を思い出します。
その先生は、精神科のお薬を飲むことへの不安を感じる患者さんに、よくこんな説明をしていました。
「薬は、自転車の補助輪のようなもの。バランスが悪くてグラグラしている間はつけるけど、スムーズに走れるようになったら、外せばいい。それと一緒」
甘えても、頼っても、その人自身が、ハンドルを握ってバランスを取っているなら、それはちっともネガティブなことじゃないと思います。問題になる「甘え」や「依存」は、このハンドルを握ってバランスをとる力を、本人から奪ってしまうものです。
なので、私は、「力を借りる」という表現が好きです。
心理学の文献では、以前はサポートsupport(下から支える、の意)という言葉がよく使われていましたが、最近ではエンパワメントempowermentという言葉が使われるようになりました。
この言葉にも、あくまでも主体である本人が、自分の足で動き出せるような力や自信をつけてあげること、といったニュアンスがあります。
力を貸したり、借りたりするものとして、人との関係を捉えると、甘えたり頼ったりすることも、もっと楽に捉えられるような気がします。
最後に、力の渡し方について書きたいと思います。
例えば、こんなことです。
大学に入ったばかりの頃、ある先輩がランチをご馳走してくれました。
私が、「次はお礼を…」と言うと、その先輩はにっこり笑ってこう言ったのです。
「私に返さなくていいから、後輩にしてあげて」
借りたものを返すだけではなく、あえて借りたままにして、誰かに同じことをすることで、返していくということもできるのだなと、何だか不思議に思ったことを覚えています。
力の借り方、貸し方、渡し方。
自分の力は巡りめぐって、誰かの元に届きます。
あなたの元に届いた励ましは、昔、その人が他の人から受け取った励ましなのかもしれません。
あなたが誰かに与えた優しさを、その人がまた、他の誰かに届けるのかもしれません。
いい力の使い方をしていきたいなと、この記事を書いてみて、改めて思いました。