「気づけば変われる」
「気づきは変化をもたらす」
自己啓発やセルフ・カウンセリングの本には、よくこんなふうに書いてあるし、カウンセリングの業界でもそのように言われます。
しかし、カウンセリングを行っていると、気づきだけでは不十分だという実感があります。
私が学び、実践している心理療法には、変化を起こすための標語があります。
「making the implicit explicit; making the explicit experiential」
なんだか呪文のようですね。
どういうことなのか、2つに分けて解説していきます。
まず、1. making the implicit explicit の部分です。
これは、ざっくり言うと「気づいていなかったことに気づこう」ということです。
・パートナーから連絡がないとどうしてこんなに不安になってしまうんだろう。
・ある日、突然会社に行けなくなってしまった。どうしてだろう。
・なんだかずっとモヤモヤしている気持ちがあるけれど、この気持ちは何を自分に伝えようとしているんだろう。
こうした疑問と向き合い、その理由や意味が明らかになる。
つまり、「気づく」のです。
・パートナーと連絡が取れないと、子どもの頃、親が家を出たまま帰って来なかった記憶が思い出されて、不安になってしまうんだな。
・そういえば、会社に行くのはもう半年ほどしんどかった。ずっと残業が続いて、上司ともうまくいかなくて、眠れなかったり、胃が痛かったりして、心身ともに限界だった。つらいなぁ、辞めたいなぁとずっと思っていたな。
・このモヤモヤは、先輩との距離感に関係がありそうだな。仕事のことを熱心に教えてくれるのはありがたいのだけど、休みの日や仕事の後にもメールでダメ出しされて、自分の仕事に口を出されて、イライラしているのかも。
ただ、これはあくまでも1つ目のステップ。実は、次のステップがとても大切です。
2. making the explicit experiential.
つまり、「気づいたことを体験しよう」ということです。例えば、
・親が帰って来なくて悲しかった、6歳の私になって思い切り泣いてみよう。そして、大人の私がその子のそばにいって、慰めてあげよう。
・つらい、辞めたいって声に出していってみよう。涙が出るし、情けないなぁとも思う。でも、なんだかホッとする。よく頑張っていたよな。
・頭の中で、先輩に対して「NO」と言ってみよう。仕事はだいぶ覚えてきたし、上司からは「その調子」と言ってもらっている。先輩はやっぱり僕に干渉しすぎだ。「ちゃんとやれます。大丈夫です。僕に任せて見守ってほしい」と伝えてみよう。
気づきを起こると、その気づきが指し示してくれる方向性や、その気づきがやりたがっていることが見えてきます。イメージなどを使って、それもやってみる。
「気づいたことを体験する」のです。
ここまでやってようやく、何かが変わり始めます。
鎧が脱げるような、背負っていた荷物が降ろせたような、雲がかかっていた視界がパァッと開けるような変化が起こるのです。
気づきだけで終わらせるのは、とてももったいないこと。
気づいたら、ぜひそれを体験してみましょう。
そして、その体験があなたにとってどんなものだったかを振り返ります。
体験は感覚の作業、それを振り返って言葉にすると、変化がより確固たるものとなります。
人が変わるときに欠かせないこと、それは心と身体で「体験し、それを振り返る」ことです。
体験にはガイドが必要なことも多く、自己啓発本やセルフ・カウンセリングだけではやりきれないことかもしれません。
そんなときは、カウンセリングを活用してみましょう。
あなたに気づきが何を求めていて、どこに行きたがっているのか。
カウンセラーはそれをきちんと感じ取り、体験のガイド役を担ってくれるはずです。