怒りは嫌われがちな感情だ。
カウンセリングのセッションでも、クライエントの体験が深まりにくくなるのは、彼らが自分の中の怒りに気づいたときだったりする。
「今ここで怒ったりしたら、カウンセラーからどう思われるだろう」
「怒るなんてみっともない」
そんな声が聞こえ、怒りにフタをしようとする。
カウンセラーは、せっかく出て来そうだった怒りを慌てて追いかける。
怒りをコントロールするとは、怒りを抑え込むことではない。
もう一度言う。
怒りをコントロールするとは、怒りを抑え込むことではない。
ではどうするのか?
カウンセリングでは、「ポートレイアル」という技法を使う。
怒りの声に耳を傾け、怒りがしたいことを、イメージの中でやってみるのだ。
例えば、映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、タランティーノ監督が、映画を通して“ポートレイアル”をやっている。
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開
(以下、ネタバレ有り)
この映画のストーリーは、ハリウッドの若手女優、シャロン・テートが惨殺された実際の事件がモデルとなっている。
タランティーノ監督は、シャロン・テートが大好きだったらしく、いわば、この映画はタランティーノ監督の犯人たちに対するリベンジの物語だ。
映画の中で、ヒッピーたちが惨殺されるシーンは、目を覆わんばかりのひどいもので、最後には火炎放射器まで登場し、ヒッピーを黒焦げにして終わる。
監督の“怒り”は、やりたいことをやり尽くした感じだ。
もちろん、実際に人を傷つけるのではない。
ただ、心の中で、収まらない怒りにこう聞いてみるだけでいい。
「イメージの中なら、何でも自由にやっていいよ。何をしたい?」と。
失敗を笑った上司の鼻に、割り箸を突っ込んでやりたい。
満員電車の中、ずっと肘で身体を押して来た女性を、怒鳴りつけてやりたい。
嫌味を言ってくる先輩を、一発殴ってやりたい。
それを、“イメージの中で”やってみる。
これは、実際にやるためのリハーサルではない。
あくまで、怒りを感じ切るためにやることだ。
怒りを感じ切ると、清々しさとともに、自信や誇り、強さが身体中に満ちてくる。
そもそも、自分が失敗したのは、上司の指示が間違っていたからじゃないか。
私は満員電車に乗っても、肘で人を押したことなど一度もない。そんな自分が誇らしい。
嫌味を言うことでしか、人と関われないなんて、かわいそうなやつだ。
そんな気持ちになれば、怒りは役割を終えて、自然とまた心の深いところに戻って行くだろう。
「君が傷つけられるようなことがあれば、いつでも戻ってくるよ」と言い残して。
大切なのは、腹が立った気持ちを、そのままにしないこと。
安全な場所、秘密が守られる場所で、カウンセラーと一緒に、怒りを溜め込まない方法んでみるといいかもしれない。