あらゆる心理療法には、それぞれの強みと弱みがあります。
そのため、ひとつの流派のやり方にこだわらず、いくつかのアプローチを併用したり、組み合わせたりしてクライエントとともに問題解決を目指す、統合的あるいは折衷的な立場をとる心理療法家も少なくありません。
こちらの記事では、認知行動療法(CBT)のトレーニングを受けた被験者たちが、ストレスを感じる状況では、せっかく身につけた“リフレーミング”という認知の枠組みを変える方法を活用することができなかったという、残念な実験結果が紹介されています。
強いストレス状況においては、人はよりなじみのあるパターンの対処を自動的にとろうとしてしまい、セラピーで練習したような論理的な考え方は影を潜めてしまうという指摘がされています。
CBTの効果を阻害した要因とは、一体なんだったのでしょうか。
ひとつには、今回の実験で行われたのは、ストレスの低い状況から高い状況までを順に並べて、その一つ一つにストレス耐性を育むような継続的な練習(専門的にいうと、不安階層表に基づいたエクスポージャー)ではなかったことが挙げられます。
それが、今回の記事のタイトルにも反映されており、心理療法において身に着けたストレス対処法を、日常生活で役立てるものにするためには、例えば、友人から批判されるといったストレス状況だけでなく、大勢の人が見ている前で上司から叱責されるといった、より“ストレスの高い状況”を想定したCBTの訓練が必要であるということです。
これも確かに一理あるでしょう。
ただ、記事の中心的なテーマにはなっていないようですが、個人的により重要に感じるのは、今回の実験では、CBTを用いて何にアプローチするのかという点が曖昧であることです。
CBTは、問題や課題に対する捉え方を変えて、これまでとは違った行動を取り、その結果、これまでよりも適応的なフィードバック(手応え)を得て、行動の変容を推し進めていくというアプローチです。
恐怖やストレスの程度は変わらなくても、物事の捉え方を変えることによって、行動変容は起こると思われます。しかし、それから、恐怖やストレスの程度に変化がみられるまでには若干のタイムラグが生じるでしょう。練習によって、行動が強化されていく中で、恐怖に対する安心感が学習され、ストレス反応が和らいでいくというプロセスが、一般的なように思われます。
つまり、感情やストレス反応に対する間接的なアプローチであるCBTという性質を考慮した、実験デザインでなくてはいけなかったのかもしれません。
こうした弱みを補うべく、近年ではマインドフルネスなどの自律神経に直接働きかける手法や、感情調整の方法を取り入れたCBTが新たに開発されています。
物事の捉え方(認知・思考)、感情、身体の反応。これらのいずれかを入り口としながらも、最終的にはこれらすべてに働きかけていくこと。
それが、心理療法の目指すべき形なのかもしれません。