他者は私ではない。
だからこそ、わかってもらえることがうれしい。
つながったと思える瞬間が愛おしい。
空気を読むとか、コミュニケーション能力とか、まるで相手や周囲と同じように感じることが是とされるような風潮がありますが、そもそもコミュニケーションが大切なのは、相手は自分ではないからです。
相手が自分であれば、言葉など不要です。
私ではない、私の考えていることが手に取るようにわかる相手ではない。
そんな相手に、気持ちを伝えるために、私たちはさまざまな言葉を使い、表情を変え、声のトーンを調整しながら語りかけるのです。

わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書 2177)
- 作者: 平田オリザ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/10/18
- メディア: 新書
- 購入: 7人 クリック: 79回
- この商品を含むブログ (43件) を見る
24時間という1日を過ごし、日本という国に暮らし、同じ暦を共有している。
この「同じである」という状況に私たちは慣れすぎてしまって、違っていることを、まるで悪のように思ってしまうことが多いような気がします。
同じ時間に電車が来ない。
同じ言葉を話さない。
同じ話題を共有できない。
それだけで、苛立ったり、腰が引けたり、興ざめしてしまうことは少なくありません。
同じ、当たり前、普通。
そんな価値観が、一体どこから来たものなのか、という疑問に時折立ち返ってみる必要がありそうです。
同じ、当たり前、普通。
そんな、どこから来たのかもよくわからない価値観に当てはまるようにと、私たちはいつの間にか、自分自身のことも、かかわっている相手のことも、切り刻んで、型にはめて、苦しめてしまっているのかもしれないのです。