感情は往々にして誤解されています。
怒らない人になる、とか、叱らない子育て、とか、怒りは怖いもの、危ないものというイメージをもたれがちです。
しかし、怒りを体験せずに大人になることの弊害もたくさんあります。
例えば、怒りは境界の役割を果たします。叱られてはじめて、やっていいことと悪いことの境界が、子どもの中に育っていくのです。
怒ること自体は、決して悪いことではありません。
それでも「自分の感情で怒ってしまった。あれは叱ることとは違う」と真面目に省みる方もあるでしょう。
心理学者のKaufmanは、怒ること自体が子どもの精神的健康に悪影響を及ぼすのではなく、怒ったあとにスキンシップなどを交えた「関係の修復」が行われないことが問題なのだと指摘しています。

The Psychology of Shame: Theory and Treatment of Shame-Based Syndromes
- 作者: Gershen Kaufman
- 出版社/メーカー: Springer
- 発売日: 2002/01
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彼は、relational bridge をかけ直す、という表現で、関係の修復を表しています。
怒りによって、この橋は一度は壊れてしまいます。それが壊れたまま修復されないのは問題です。しかし、それを再び掛け直すことができたら、子どもは親の愛情を確認できるとともに、感情を表して相手を傷つけてしまっても、やり直すことができるということも、同時に学ぶことができるのです。
感情的になって怒ってしまった、手を上げてしまった、と自己嫌悪に陥って、子どもにかかわる自信をなしたり、もう2度と怒らないなんていう無理な誓いを立てる必要はありません。
怒ってしまったときは、子どもに関係は壊れっぱなしではなく、修復できるもので、取り返しがつかないことではないのだと教えられる機会になるということを、頭の片隅に置いておいていただければと思います。
これはもちろん、子育てに限らず、友人関係、恋人との関係、親との関係、すべてに言えることです。
怒らない人になることよりも、怒りの意味や機能をよく知って、怒りに対処することを目指すほうが、生きやすくなるような気がします。感情全般にしても同様です。感情を抑えたり、避けたり、無視したりするよりも、感情の意味や機能をよく知って、感情に対処することのほうが、結果的に自由で豊かな人生になります。
壊れた関係を修復するには、勇気とエネルギーが必要で、時には諦めてしまいたくなることもあります。しかし、片方が諦めかけていても、もう片方が諦めなければ、修復の可能性は維持されます。
人間関係とは、こんなふうに持ちつ持たれつで出来上がっています。多くの可能性と、多くの希望を、そこに見ることが出来るような気がします。