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〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

動物から学ぶ感情:猫のコミュニケーション・スタイル

感情は、特定の機能と役割を有し、進化の歴史を生き残ってきました。

中でも大切な機能と役割のひとつは、“つなぐ”という働きです。

共生的な関係や信頼関係を築く上では、相手の感情を読み取ったり、自分の感情を相手に伝えたりといった感情の相互交流が欠かせません。

「犬は人につき、猫は家につく」という言葉がありますが、やはり一般に、猫よりも犬ほうが感情の動きを読み取りやすいと感じられているのかもしれません。

動物学者のテンプル・グランディンによると、人と動物の共生の歴史において、人と犬は協力関係を、人と猫は利害関係を築いてきており、それがコミュニケーションの違いに反映されているそうです。

動物が幸せを感じるとき―新しい動物行動学でわかるアニマル・マインド

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共に狩りをしたり、棲家を守ったりといった形で協力関係にあった人と犬は、顔の表情や声の調子で気持ちを伝え合う必要があったため、表情豊かで鳴き方のバリエーションも豊富な犬ほど人に好かれるといった淘汰圧がかかりました。

一方、被食種(主にネズミ)をめぐって人と利害関係にあった猫は、犬ほど人とのコミュニケーションに敏感になる必要がなかったと考えられています。そのため、猫は表情や鳴き声などを通したわかりやすい表現ではなく、身体の接触や、匂いや排泄物といった分泌物をコミュニケーション・ツールとして利用します。

残念ながら、人には猫が発するにおいからのメッセージを読み解くだけの嗅覚がないため、“におい”をめぐる行動から、彼らの気持ちを察することしかできません。

ペットの犬や猫が教えたはずの場所以外のところで排泄をするとき、その背後には、不安や攻撃性の問題があると、グランディン博士は指摘しています。

この本では、飼い主の女性の新しいボーイフレンドが家に転がり込んできたとき、飼い主の顔や持ち物に尿をかけた猫の話が紹介されています。これは、猫が“飼い主は自分のものだ”と、新参者(ボーイフレンド)に知らせるためのマーキング行動でした。

グランディン博士は「猫の排泄の問題は、実は情動の問題だ」と言い切っています。

これは、とても興味深い視点です。

マーキングは、「ここは自分の縄張りだ」という社会的シグナルですが、このシグナルには、自分の縄張りを取られやしないかという不安と、取られてたまるかという攻撃的な気持ちとが入り混じっています。

精神分析でも、排泄という生理的な現象に心理的な意味づけをしていて、自我の発達に肛門期(1歳半〜3歳頃)という段階を仮定していますが、こうした動物の行動と情動の関係について知ると、排泄と感情をめぐっては、トイレット・トレーニングにおける葛藤にとどまらず、進化論的な意味合いもあるかもしれない、と妄想が広がります。

猫や犬のコミュニケーション行動を観察することを通して、人の心を理解するための新しい枠組みを得ることができるかもしれません。

この探求は、もう少し続けてみたいと思います。