今回は、神経科学の専門家であるロックフェラー大学のブルース・S. マッキイエン(Bruce S. McEwen)教授のインタビューをご紹介します。
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ストレスに関する興味深い記事でしたが、いつもより長めの内容なので、2回にわけて書きたいと思います。
ストレスは、適度なストレス(good stress)と過剰なストレス(toxic sterss)の2種類に分けられる。
ストレスには、脳にダメージを与えるというネガティブな側面だけでなく、脳の成長を促進するという大切な役割もあり、悪い面と良い面の両方を持っていると言えます。
これを、マッキイエン氏は“アロスタティックロード(allostatic load)”と呼んでいます。アロスタティックロード(allostatic load)とは、私たちの環境での適応と生存を助けるシステムなのですが、この働きが過剰になるとさまざまな問題を引き起こします。
日本語で詳しく解説しているHPがありましたので、こちらをご参照ください。
ストレスはゼロでも健康を害します。適度なストレスはむしろあるほうがいいのですが、一方で過剰なストレスは心身の健康を害します。
・適度なストレス:困難な状況にうまく対処するために、気持ちを高めてくれる。
・過剰なストレス:耐えられないほどの強いストレス。周囲の助けを借りて乗り越えることができれば強みになるが、一方で、問題に直面した際のサポートが不十分だったり、不幸な生い立ちからくるトラウマ等によるストレスへの脆弱性を備えている場合は、深刻な結果をもたらし、脳の炎症を引き起こす。
ストレス耐性は、遺伝と環境、両方の影響を受ける
幼少期に虐待などの過酷な体験をした人には、自尊心の低下やストレス反応をコントロールすることの困難が生じますが、一方で、そうした経験を持つ人すべてがストレスへの脆弱性を持つわけではないことも明らかになっています。
このことから、ストレスに対する脆弱性やストレスに対する強さは、遺伝子による影響を一定程度受けると、マッキイエン氏は指摘しています。
しかし、それは永久不変のものではなく、もって生まれたストレスに対する脆弱性が補われるような良い環境に置かれ、適切な介入(例えば、育て方)を受けることによって、ストレス状況に対する適応力が後天的に養われるとも言われています。
これは、あたかも“遺伝子が変化したかのように見える”現象(epigenetics)として知られるようになってきています。
もはや「遺伝か環境か」ではなく、「遺伝と環境と」であり、この2つの要素がいかに複雑に絡み合っているかに、焦点が移りつつあるようです。
もともと、ストレスは、生理学者のセリエが、「外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応」として捉えたものなので、心の専門家も、ストレスに関する正しい知識を持つためには、生理学や遺伝学にも関心を持つ必要がありそうです。
また、遺伝と環境の関連は、よく蘭とタンポポになぞらえて語られます。
蘭はとても繊細で枯れやすく、ストレスに対する脆弱性が高い植物ですが、生育条件に合ったよく整えられた温室では、のびのびとよく育ちます。一方、タンポポはどのような環境でもよく育ちます。
子育てに例えるなら、前者は養育環境が大きなカギを握り、後者は子どもの持った素質がカギを握るというところでしょうか。こうした個性をよく見極めることが大切です。
次回ご紹介する後半部分では、動物を対象とした研究を踏まえたストレスに関する知見も取り上げられています。