私たちが、日常の中であまり感じたくないと思う感情の一つに、不安があります。
不安を感じるからこそ、私たちは、翌日のプレゼンの準備や練習を入念に行ったり、集合時間を確認したりと、何らかの事態に備えてリスクを回避する行動をとることができます。しかし、こうした不安が、実際はまったく安全な状況で喚起されたり、その場にそぐわないくらいの強さで起こって生活に支障が出てしまう場合は、何らかの対策や治療が必要になります。
過去の研究では、不安を喚起するような状況にいろいろなやり方で対処しようとする人のほうが、その状況自体を否認したり、心身に湧き起こる緊張やネガティブな感情を抑圧する人に比べて、不安を体験することが少ないことが明らかになっています。
今回の研究は、もう少し進んで、不安を抑制しようとするような方法よりも、ポジティブな側面に注目するような方法を多くとるほうが、レジリエンスが高まり、不安から自分を守ることができるのではないか、という仮説のもとに実施されました。
前者は、何か困難な状況にぶちあたったときに、「自分には不安や心配事など何もない」というふうに、実際は感じている気持ちから目を背ける方法。
後者は、もうひとつは、困難な状況の中に良い面や役に立つ事柄があるだろうかと、その状況のポジティブな側面を探そうとする方法と言えます。
この2つのうち、どちらが不安の対処に役立つでしょうか。
今回の研究では、後者の方法を取ることによって、不安に圧倒されないでいられることがわかりました。
これは、認知行動療法で用いられる認知の再構成、あるいは再評価と言われる方法です。物事を別の枠組みでとらえ直すという意味では、リフレーミングとも言えるかもしれません。認知行動療法やNLP(神経言語プログラミング)では、このような呼び名で呼ばれますが、一般的なカウンセリングの中でもよくみられる現象です。
記事の中では、行動療法的な視点からの考察が書かれていますが、ここは感情に関するブログなので、感情の作用という側面から考察してみたいと思います。
まず、困難な状況から目を背けている状態から、その物事の良い面を探してみようというモードに切り替わるとき、その人の中で“探索”のスイッチが入ります。
怖い怖いと思っていた暗闇に、何があるのかとじっと目を凝らして“探索”してみようとするとき、私たちの心の中に灯るのは、【好奇心】というロウソクの明かりです。
【好奇心】はポジティブ感情の一つで、ポジティブ感情には、不安や恐れ、ゆううつといったネガティブ感情の解毒剤として働くという効果があります。
(なんとなくピンとこない方は、暗くて人気のない道を、きょうだいや友達と面白い話をしながら返っているところを想像してみてください。おっかない気持ちは心の片隅にはあっても、しっかりと前に進むことはできると思います)
次に、ポジティブな側面に注目することは、「何とかなるかもしれない」という【希望】を生み出し、また、「ポジティブな側面を見つける」という課題を達成した【達成感】を感じることもできるでしょう。
この【希望】と【達成感】も、ポジティブ感情として知られるものです。
再評価もリフレーミングも、とても役に立つテクニックなので、悲観的になりやすかったり心配性なところがある人は、日常でも意識して使ってみると助けになるでしょう。
ただ、感情の役割と機能を重視する立場の人間としては、それらは決して単なる知的な作業ではなく、意識の水面下でポジティブ感情が高まることによって、不安が和らいでいくというからくりがあるように思われるのです。
ほぼ1年前にも同じようなテーマで記事を書いていました。
併せてお読みいただければ幸いです。