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〜自由が丘カウンセリングオフィスのblog〜

虐待は子どもの脳にどんな爪痕を残すか

ヒトは生理的早産と言われるように、非常に未熟な状態で生まれてきます。

ヒトの脳は、出生後も成長を続け、小学校低学年くらいでは、まだ脳は発達の途中にあることが知られています。そのため、幼少期の虐待は、発達途中の未完成の脳に大きな爪痕を残します。 

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この記事で紹介されている研究では、精神的虐待(emotional abuse)が自己意識と感情調整を司る脳の部位に、性的虐待は身体感覚を司る脳の部位に、それぞれ影響を及ぼすことが明らかにされました。

性的虐待では、脳の体性感覚皮質(the somatosensory cortex)が影響を受けます。

体性感覚 - 脳科学辞典

体性感覚皮質とは、感覚や知覚を生み出す過程で身体からの刺激が処理される部位です。また、この部位はこれらの刺激をもとに身体のイメージを作り出します。虐待経験のある女性は、そうでない女性と比べて、この部位の皮質が薄くなっていることがわかりました。皮質は、厚みがあるほど“よく発達している”と考えられています。つまり、性的な虐待が、脳の体性感覚皮質の発達を阻害したということが見て取れるのです。

さらに、この部位の発達が妨げられると、痛みを感じる閾値が下がり、痛みを感じやすくなることも別の研究から明らかになっています。

一方、精神的虐待は、脳の前頭前皮質(the prefrontal cortex : PFC)と内側側頭葉 (medial temporal lobe : MTL)の発達を妨げ、自己意識と感情調整に悪影響を及ぼすことが示されました。

前頭前野 - 脳科学辞典

この研究は、成人女性を対象としており、彼女たちが子どもの頃の脳の状態を測定できたわけではありません。しかし、前頭前皮質や内側側頭葉の発達不全は、幼少期に受けた虐待が長期的な影響力を持ち、虐待経験を持つ人たちから、安定した対人関係のように脳の発達を促進してくれる機会を奪ってしまうことが指摘されています。

さらに、性的虐待も精神的虐待も、脳の部位同士がつながる力を弱めてしまいます。

これは、つらい体験を情報として処理したり伝達したりしないという、ある意味、自分を守るための反応でもあります。しかし、同様に健全な体験や感覚の伝達までもが妨げられてしまうため、良い結果にはつながらないのです。

悲観的な情報ばかりを並べてしまいましたが、こうした脳の発達不全は克服できないというわけではありません。私たちの脳は、よくも悪くも、環境からの刺激に反応し、自分を取り巻く世界への適応や調和を図ろうとします。適切な治療や感情体験がもたらされることにより、脳は劇的な変化を遂げることもまた、明らかになっているのです。